医師が提唱する「健康寿命を延ばすための医師の利用法」とは?

健康寿命を延ばすための医師の利用法

健康寿命を延ばすには、医師との上手な関わり方が重要です。脳卒中や骨折など、寝たきりのリスクを抑えることがカギとなります。

本記事では、医師の利用法や健診の活用方法、かかりつけ医の見つけ方など、健康寿命を延ばすための具体的なアドバイスをファミリークリニックあざみ野 院長の石井 道人(いしいみちと)先生にいただきました。

プロフィール

ファミリークリニック あざみ野 院長 石井 道人 医師

日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医
日本救急医学会認定救急科専門医
日本内科学会認定内科医
日本医師会認定健康スポーツ医
日本医師会認定認知症サポート医
キッズガーデンプレップスクール嘱託医

ファミリークリニック あざみ野

そもそも「健康寿命」とは何でしょうか?

健康寿命とは、介護を受けずに自立して生活できる期間のことを指すことばです。85歳まで生きていれば「寿命」は85歳ですが、その人が5年間寝たきりで介護を受けた後に息を引きとった場合、「健康寿命」は80歳です。

寝たきりになるきっかけとして多い要因は、認知症を除くと「脳卒中」と「骨折」の2つです。逆に、この2つを防ぐことができれば、寝たきりのリスクを大幅に下げられるといえます。

脳卒中とは、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血といった脳の血管の病気の総称です。脳卒中のリスクを上げる要因の中でも、「高血圧」と「タバコ」はとにかく避けなければならない大きなものです。

高血圧は、日本の国民病です。日本は島国で塩分摂取量が多いことが知られていますが、「食塩感受性」といい、摂取した塩分がからだの中に蓄積される割合も、欧米人に比べて高いといわれています。糖尿病なども脳卒中をひき起こす危険因子ではありますが、日本人の場合、高血圧に気をつけることが脳卒中予防の最短コースだといえます。

盲点となりがちなのは、高齢者の転倒・骨折です。骨折しやすいのは、手首、足のつけ根、背骨の3ヶ所で、特に足のつけ根の骨折には注意が必要です。歩行困難になるどころか、男女ともに死亡率を高め、男性では骨折から1年以内に1/3の方が死亡するという衝撃的なデータがあります。若い頃には痣(あざ)ができる程度で済んでいた軽いケガが、命をおびやかす原因にもなるのです。

高齢になって骨折しないようにするには、骨密度を測り、必要であれば骨粗しょう症の治療を受けることです。現状では、骨密度をきちんと測る機会は待っていても訪れません。特に女性は閉経後から骨密度が大幅にダウンするため、正確に測れる機械を備えた医療機関を見つけ、検査することをおすすめします。

高齢になると、家の中で転倒することも増えます。わかりやすい段差よりも、普段は気にも留めない小さな段差が危険です。じゅうたんがめくれているところがないか、部屋と部屋の間に小さな段差がないかなどの確認が必要です。滑りやすいスリッパや靴下も要注意です。

医師の出身大学は着目すべきポイントなのでしょうか?

自治医科大学(自治医大)出身の医師は、地元で家族の健康を支えてもらうのに合っているといえます。

自治医科大学は、僻地の地域医療を確保するために、全国の都道府県が共同で設立した医科大学です。入試では毎年各都道府県の出身者のトップ2~3名ずつを合格させて、全員が6年間寮で生活しながら医学を学びます。学費はほぼ全額大学から貸し出され、卒業後には少なくとも9年間、出身の都道府県に戻って指定された勤務先で地域医療に貢献すれば、返済が不要となる仕組みになっています。

自治医大は、元々各県でトップクラスの学生が集まってきたうえに、全寮制で学年を越えて学び合う文化があり、学生は懸命に勉強することが当たり前の環境となっています。医師国家試験の合格率は毎年ほぼ100%。他にそんな大学はありません。

現在、1980~90年代に自治医大を卒業した医師たちが総合診療という分野の核となって活動しており、多くの若手医師のお手本となっています。救急医や整形外科医などの専門医でありながら、とてつもない総合力を持ち、病院でも地域でも活躍できることが彼らの特徴です。私も多くの自治医大卒の医師に指導を受け、そのことが血となり肉となっています。

診察を受ける側からすると、地元で家族の健康を支えてもらうには、自治医大出身の医師はぴったりでしょう。近くにそんな医師がいないか、チェックしてみるのもおすすめです。

もう一つ、臨床研修をどこで受けたかも重要な要素です。磁石のように医師や看護師を引きつける病院のことを「マグネットホスピタル」と呼びます。昨今、マグネットホスピタルとして注目を浴びているのは、ジェネラルマインドを持った医療を目指す病院です。

新臨床研修制度が始まった2006年以降、医学生は6年生になると自分が働きたい病院の希望を出し、就職活動を行うようになりました。このときのデータが集計され、毎年人気の病院ランキングが発表されます。このランキング上位に並ぶ病院こそが、まさしくマグネットホスピタルです。

例年、ランキング上位の病院はどこも「ジェネラルマインドのベースがあったうえでの専門医療」という考えを持ち、研修医にもたっぷりとジェネラルマインドを叩き込みます。専門分野が何かという前にまず医師であり、どの診療科の医師になっても最低限の応急処置はできて当たり前というのが多くのマグネットホスピタルに共通する教育理念になっています。マグネットホスピタルで研修を受けたり、医師として働いた経験があったりする医師はおすすめです。

医師を見極める際にすべき質問などはあるのでしょうか?

ご自身に合った医者を見つけるチェックポイントを挙げましたが、おすすめの医師かどうかがすぐわかる手っとり早い方法があります。次の3つの質問を、診察の中で投げかけてみることです。

  • 「外科のことも相談できますか?」
  • 「先生の専門は何ですか?」
  • 「通院できなくなったらどうすれば良いですか?」

それぞれについて解説しましょう。

「外科のことも相談できますか?」

外科とは、キズややけど、ケガの処置など、簡単なものも含めて手術や処置で治癒を目指す分野です。整形外科や形成外科、広いくくりでは、耳鼻科や眼科も外科に分類されます。

内科医になると、外科的な処置に対してどうしても苦手感が生まれ、あまり手を出したくなくなってきます。何かあったときにかかろうと思っている診療所で、ちょっとしたキズの処置などにも対応してくれれば便利ですが、そういった診療所が少ないのには、こういった理由があるのです。

そのため、「外科のことも相談できますか?」と聞いてみて、快諾してくれる内科医や小児科医であれば、ホームドクターとしてイチ押しです。

医師目線においておすすめの「受診の仕方」はあるのでしょうか?

ご自身がかかっている病院の診察時間が短いと思ったら、1回の診察の内容を濃いものにしていきましょう。普段から聞きたいことをノートや手帳に書きとめておき、診察に行く前に優先順位をつけておきます。いざ診察となったら、もっとも相談したいと思っていることから聞いてみてください。

しばしば、大きな病院は「3時間待ちの3分診療」と揶揄されます。朝早く診察券を出しに行っても長いこと待たされ、やっと順番が回ってきたと思ったらあっという間に診察室を追い出される……この間、約3分。

これは、大病院だけに限ったことではありません。街中のクリニックでも、人気のあるところでは1~2時間待つことが当たり前の状況です。

日本の特徴は、1年間に病院を受診する回数が12.9回と、先進国の中でも突出して多いことです。受診の頻度が高いということは、病院に来る患者の延べ人数は相当数いるということです。そのため待合室が混雑し、一人ひとりの診察時間が短くなることも当然です。

持病がある人は、状態が変わらなくても、薬をもらうために定期的に病院に行かなくてはなりません。2002年までは、1回の処方でもらえる薬は14日分までというルールがありましたが、現在はこのルールはありません。

しかし、さまざまなしがらみが残り、患者さんの希望があってもなかなか長期間の処方をしづらいのが現状です。したがって、薬をせいぜいひと月分しか処方してもらえず、結局毎月通うことになるわけです。

健康診断の良い活用方法はありますか?

日本のように、毎年無料で健康診断(健診)が受けられる国は他にありません。ただ、残念なのは、せっかくの健診の中身に無駄が多いのと、その後のフォローにあまり力を入れていないところです。健診をどのくらいの人が受けたかという「受診率」ばかりが追い求められ、健診によってもたらされる大切な効果の測定がほとんどされていないのです。

健診で一番大事なことは、どうやって受けるかではなく、受けた後の「結果」が「行動」につながるかどうかです。しかし、残念ながら多くの人間ドック施設が、内装や検査機器にはお金をかけながら、病気が見つかった後のことにはあまり注力していません。

健診の結果は、正常範囲の数値と自分の数値をしっかりと見比べましょう。昨年と比べてどうなのか、数値の推移にも気を配りましょう。異常な数値が出たら、健診を受けた病院や、自分がふだんかかっているクリニックなどで診てもらう必要があります。数値に問題がなかったとしても、気になることがあれば、受診した病院に問い合わせることもできます。

自分で高いお金を払って行く人間ドックはもちろん、自治体から届いた案内や会社の福利厚生で受ける健診にしても、せっかく時間をかけて受けるのですから、結果はとことん自分の健康管理に活かしていきましょう。

健康寿命を延ばすには、医師とどう関われば良いのでしょうか?

医者を上手に利用する究極の方法は、近所に信頼できる医師を見つけ、一生の健康管理をしてもらうこと、つまり「かかりつけ医」を見つけることです。たとえ肩書きが「消化器内科」や「呼吸器外科」などの専門医であっても、また総合医であっても、ご自身の悩みを真っ正面から受け止めてくれるかどうかが大事です。「このお医者さんにはちゃんと話ができるな」と思う医師なら、その人はご自身のかかりつけ医としてふさわしいといえるでしょう。

さらに理想なのは、一家全員で同じかかりつけ医に診てもらうことです。「一家に一人の家庭医」が浸透しているオランダでは、生まれた瞬間にその子どもの主治医が決まります。多くの場合、母親の主治医が担います。まさに「家庭医」です。

母親の体質やかかった病気、育ってきた環境、妊娠中の経過など、すべてを知り尽くしている医師だからこそ、子どもにも提供できる医療があります。母親に高齢の両親がいて、介護が必要な状況であれば、子育てで大変な時期には介護をサポートするサービスを紹介したり、母親ががんばり過ぎて鬱にならないかなど、注視したりすることもできます。

このように、一家でかかりつけ医をもつことのメリットははかり知れません。私はこの「一家に一人のかかりつけ医」が、日本でも当たり前の光景となることを夢見ています。

まとめ

健康寿命を延ばすためには、医師との関わり方がいかに重要かファミリークリニックあざみ野 院長の石井 道人先生に解説いただきました。

日常的な健康管理や適切な受診の仕方が、潜在的な健康リスクを軽減し、より充実した人生を送るために重要であることがわかりました。また、かかりつけ医の存在は、健康寿命の質を大きく向上させるために不可欠であるといえます。

一人ひとりが自身の健康に対する意識を高め、信頼できる医師との強固なパートナーシップを築くことで、健康で活動的な長寿を実現しましょう。

この記事の監修医師

石井道人

石井 道人 医師(ファミリークリニック あざみ野 院長)

  • 北里大学医学部卒。
  • 東京都立多摩総合医療センターで救急医療、総合診療を学ぶ。2013年より北海道・喜茂別町で唯一の医療機関、喜茂別町立クリニックに管理者として赴任。乳幼児健診から看取りまで、町民二千人の健康管理を担う。
  • 日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医、日本救急医学会認定救急科専門医、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本医師会認定認知症サポート医、キッズガーデンプレップスクール嘱託医