田尻 友恵 医師
北里大学卒業。東京医科歯科大学、慈恵医科大学、都内クリニックで皮膚科、一般内科、美容皮膚科等で研磨を積み、2022年7月錦糸町皮膚科内科クリニックを開院。皮膚科・内科を始めとしアレルギー・ペインクリニック・美容皮膚科まで幅広く疾患を診る。
麻酔科専門医、日本医師会認定産業医、日本抗加齢医学会、日本美容皮膚科学会、麻酔科学会、ペインクリニック学会 所属
虫に刺されると腫れや痒み、痛みなどの症状が現れます。しかもその症状がなかなか治らないと、とても心配になることでしょう。
お出かけ中、キャンプ中、運動中など、虫に刺される危険は身近に潜んでいます。今回は、虫刺されの腫れが治らないときの対処法や、虫刺されの予防方法について解説します。
虫刺されの症状
虫刺されとは、吸血性の虫や身体に毒を持った虫に刺されることで起きる皮膚炎の総称で、医学的には「虫刺症」といいます。虫刺されの原因となる虫は、森の中や草むら、水辺など自然が多いところだけでなく、ダニのような家の中にも潜み、私たちにとってとても身近な疾患といえます。
代表的な症状としては、痛み、赤み、腫れ、痒み、水ぶくれなどがあります。このうち「痛み」は、刺されたり、咬まれたりした際の物理的な刺激によって生じたり、虫の唾液や毒などが皮膚内に注入されて起こります。
一方、「赤み、腫れ、痒み」は、注入された唾液や毒に対して起こるアレルギー反応です。いずれの症状も異物に対する生体の防御反応として現れる症状となっています。
腫れや痒みの症状が出る理由
虫刺されで、腫れや痒みの症状が出る理由は身体がアレルギー反応を起こしているからです。虫が皮膚を刺したり咬んだりすると、虫が持っている毒や唾液成分が抗原(アレルゲン)となって身体の中の抗体と反応を起こし、ヒスタミンなどの痒みの原因となる物質が分泌されて腫れや痒みなどの炎症を引き起こします。
このような症状は刺された直後から反応が出る「即時型反応」と翌日などしばらくして反応が出る「遅延型反応」に分かれています。
即時型反応
虫刺されによる即時型反応とは、虫の唾液成分・毒成分が皮膚内に注入された直後に出てくる反応のことです。一般には、数分から数時間以内に症状が現れ、症状としては、痛み・赤み・腫れ・痒みなどがあります。
遅延型反応
一方で、遅延型反応とは、刺された後にしばらくしてから症状が出る反応のことです。一般には、1〜2日後に症状が現れ始め、痒みや赤み、水ぶくれといったアレルギー反応が現れます。
即時型反応と比べ、痒みをはじめとするアレルギー反応が強く出ることが多く、刺された人の免疫反応の強さにより、症状の強弱が大きく変わります。特に、ハチなどに刺された際に起こすアナフィラキシーは全身に症状が現れ重症化するリスクもあるため注意が必要となります。
虫刺されで腫れを引き起こす有害生物
虫刺されの原因となる有害生物として、皆さんが思い浮かべる虫はどのようなものがあるでしょうか。身近な虫といえば、蚊やハチなどが挙げられるかと思います。
虫刺されで腫れを引き起こす有害生物は身近なところに多く潜んでいるので、覚えておくことで有害生物を避けることもできます。ここでは吸血性の虫、刺す虫、咬む虫の3タイプに分けて有害生物を紹介します。
吸血性の虫
まずは、吸血性の有害生物を紹介します。一般的には、吸血昆虫と呼ばれ、口吻を動物の皮膚に刺して血液を吸う昆虫の総称です。
蚊
蚊は最も身近な有害生物と言っても過言ではありません。遭遇する頻度や刺される頻度が高く、刺されると血が吸われ強い痒みが特徴の腫れを引き起こします。人によっては過敏に反応し強い腫れや発熱を起こすこともあります。
活動時期:春〜秋
ブヨ
ブヨは蚊やハエのような見た目の虫で、水場の近くに多く生息しています。蚊に比べて、刺されてから症状が出るのが遅く、半日〜1日後に痒みや腫れといった症状が現れ始めます。症状は徐々に強くなっていき、蚊よりも症状が悪化しやすく、患部のしこりがしばらく残ることもあります。
活動時期:3月〜10月
ノミ
ノミによる虫刺されは、ペットに寄生している「ネコノミ」が原因であることが多いです。ネコノミは吸血のために人を刺し、刺されると1〜2日後に強い痒みと赤い発疹が現れます。ネコノミに刺されたことがない人ほど、症状が激しく出ることがあり、水ぶくれの症状が出ることもあります。
活動時期:春〜秋
刺す虫
続いて、刺す虫の有害生物を紹介します。
ハチ
ハチに刺されると、すぐに強い痛みを引き起こし、毒成分が体内に注入されるとアナフィラキシーショックを起こすこともある危険な虫です。痛みの症状以外にも、灼熱感や腫れ、悪化すると出血したり水ぶくれができることもあります。
アナフィラキシーショックは、初めて刺された際に起こることはなく、2度目以降に刺された時に起こる可能性が高くなります。多くの場合、刺されてから30分以内に全身に痒み、蕁麻疹、吐き気、胃の痛み、むくみなどの症状が現れ、ひどい場合には意識不明の状態や呼吸困難に陥ります。こうした症状が現れた際は、救急車を呼んですぐに医療機関を受診してください。
活動時期:4月〜11月
咬む虫
咬む虫の有害生物を紹介します。
ムカデ
ムカデは落ち葉などの下に多く存在し、人家にも侵入することのある虫で、牙を使って皮膚を咬み、毒成分を体内に注入します。ムカデに咬まれるとすぐに、強い痛みや腫れ、赤みなどの症状が現れます。ハチと同様にアナフィラキシーショックを起こすことがあるので、体調に異変を感じたら、すぐに医療機関を受診してください。
活動時期:3月〜12月
クモ
咬むクモとして代表的なものに、セアカゴケグモというクモがいます。セアカゴケグモに咬まれると、針で刺したような痛みを感じ、やがて咬まれた部分の周りが腫れて赤くなります。その後、痛みは体全体に広がり、脱力、頭痛、筋肉痛、不眠などの症状が数週間続くこともあります。体調に異変を感じたら、すぐに医療機関を受診してください。
活動時期:5月〜10月
虫刺されで腫れなどの症状が出た時の対処法
虫刺されの原因となる虫は小さく、知らぬ間に刺されていたり、注意をしていても刺されてしまうことがよくあります。ここでは、虫に刺されて痒みや腫れの症状が出た場合の対処法について解説します。
患部を冷やす
虫に刺されたり咬まれたら、患部をこすらずに冷水で洗い、よく冷やしてください。ハチや毛虫など、患部に毛や針が残っている場合はピンセットや粘着テープでよく取り除いた後で、洗い流しましょう。
痒みが強い場合は、保冷剤や冷水で冷やすことで、痒みを抑えることができます。掻きむしってしまうと、出血したり傷口から感染症を引き起こすこともあるので注意が必要です。
ステロイド外用剤を患部に塗る
症状が痒みだけであれば、市販の痒み止めでも十分に対処可能です。しかし、患部の腫れが大きかったり、痒みが強い場合はアレルギー反応を起こしている可能性が高いため、炎症を抑えるためのステロイド外用剤を患部に塗りましょう。
ステロイド外用剤は、薬局にも売っていますが、症状が悪化して心配な場合は速やかに皮膚科を受診しましょう。
虫刺されの腫れが治らない時の対処法
患部を冷やしたり、塗り薬を塗っても症状が改善されない場合についての対処法を解説します。
なるべく早めに皮膚科を受診する
腫れや痒みの症状が強かったり、痛みがある場合は、強いアレルギー反応を起こしている可能性が高く、市販の塗り薬では処置が不十分なこともあります。そうした時は、なるべく早めに皮膚科を受診してください。
特に、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性の高いハチやムカデに刺された場合、症状は患部だけでなく全身へと広がるため、すぐに医療機関を受診してください。場合によっては救急車を呼ぶことも検討しましょう。
掻きむしらずに清潔に保つ
症状が悪化して痒みが強い場合でも、患部を掻きむしらないようにしましょう。掻き傷から出血したり、傷口から感染症を引き起こす可能性があります。患部は清潔に保ち、保冷剤を当ててよく冷やすと痒みが和らぎます。
虫刺されの予防方法
虫刺されは、症状が出てしまった後の対処も重要ですが、繰り返し虫刺されにならないよう予防することも大切です。
虫刺されの予防としては、物理的に刺されないように虫をブロックする方法と虫を寄せ付けない方法があります。本記事の最後として、虫刺されの予防方法について解説します。
肌の露出の多い服装を避ける
虫が多い場所では、露出の多い服装は避けましょう。長袖長ズボンを着用したり、帽子を被りましょう。首周りも刺されやすい箇所なので、首の開いたものよりも襟のあるものがおすすめです。
注意点として、夏場は熱中症にも気をつける必要があるため、こまめな水分補給を忘れずに行ってください。
虫除けスプレーを使用する
服で覆えない部分については、虫除けスプレーを使うと効果的です。代表的な成分としては、ディート製剤とイカリジンがありますが、使用上の注意点をよく呼んで間違った使い方をしないように注意しましょう。
蚊帳など物理的に虫を近づけない
キャンプ場をはじめとする虫が多い場所では、蚊帳などを使って物理的に虫が入りにくい空間を作ることが大切です。虫除けスプレーや蚊取り線香だけでは、完璧に侵入を防ぐことは難しく、特に寝ている間は虫の接近に気付けないので蚊帳はとても効果的です。
虫の多い場所に近づかない
当然のことですが、虫の多い場所に近づかないことが虫刺されを予防するためには重要です。特に、虫刺されの対策が不十分な状態だったり、子どもを連れている時は、不用意に虫が多い場所に近づくことを避けて自己防衛に努めましょう。
まとめ
虫に刺されると腫れや痒み、痛みなどの症状が出ます。虫によっては毒成分を持っていたり、強いアレルギー反応を引き起こすため適切な処置が必要です。
患部は冷水で洗い、清潔に保ちましょう。痒みは保冷剤で冷やしたり、ステロイド外用剤を塗ると和らぎます。症状が改善されない場合は、皮膚科を受診して医師に相談することも大切です。