ボトックス注射でワキガは治せる?保険適用のボトックス注射について医師が解説

ボトックス注射でワキガは治せる
この記事を監修した医師
小松磨史

小松 磨史 医師

みずほクリニック

1994年札幌医科大学卒業、札幌医科大学・形成外科入局、1998年札幌医科大学・大学院卒業 医学博士取得、米国フロリダ・モフィット国立癌センター勤務(ポストドクトラル・フェロー)2000年札幌医科大学・形成外科助教、2002年北海道砂川市立病院・形成外科 医長、2005年大手美容形成外科入職(院長歴任)、2014年みずほクリニック開院(院長)

日本形成外科学会・形成外科専門医、日本美容外科学会・正会員、医学博士

脇の臭いの原因をご存じでしょうか?脇の臭いはストレスや食習慣などでも影響され、脂質が多い食事をしたり、ストレスが溜まったりすると臭いが強くなるといわれています。

他にも、脇の臭いの原因となる疾患として「ワキガ」があります。脇の臭いが強いと、自分はワキガなのかもしれないと不安になってしまうでしょう。ワキガや脇のボトックス注射について理解するためにも参考にしてください。

目次

ワキガとは?

ワキガは腋臭症とも呼ばれ、脇から独特な体臭を発する状態を指します。
この体臭は、主にアポクリン汗腺から分泌される汗に由来します。

アポクリン汗腺は、脇の下だけでなく、外耳道、まぶたの縁、鼻、乳輪、外陰部などの毛穴にも分布しています。
アポクリン汗腺から分泌される汗は脂質やタンパク質を含み、これらが皮膚表面の細菌によって分解されることで特有の臭いが生じます。ワキガの人はアポクリン腺が大きく、その数も多く、分泌量が多い傾向があります。

ワキガは遺伝的な要素を持ち、親子間で現れることが多いようです。また、思春期になると性ホルモンの影響でアポクリン腺の分泌が増えます。

ワキガの予防としては、皮膚表面の細菌を減らすために、常に脇を清潔に保つことが大切です。治療方法は、手術や塩化アルミニウムローションの使用などがあります。

ワキガのセルフチェック方法

ワキガのセルフチェックは、自分自身の体臭や身体や汗の状態を観察することが大切です。

まず、耳垢が湿っているかどうかを確認します。湿った耳垢は、アポクリン汗腺が活発であることを示す可能性があります。次に、家族にワキガの人がいるかどうかを確認します。ワキガは遺伝的な要素が強いため、家族にワキガの人がいる場合、自分もワキガである可能性が高まります。

洋服の脇の部分が黄ばんでいるかどうかもチェックポイントです。黄ばみは、アポクリン汗腺から分泌される汗に含まれる成分が原因となり、ワキガの可能性を示す場合があります。また、特定の部位(ワキや鼠径部)の毛が濃い場合、アポクリン汗腺が多い可能性があり、この場合もワキガの可能性が高まります。

食生活もワキガの臭いに影響を与えます。なかでも、動物性脂肪を多く摂取する食生活をしている人は、アポクリン汗腺からの分泌物に臭いの元となる脂肪成分が多く含まれている可能性があります。

以上のような観察を通じて、自分がワキガの可能性を持っているかどうかをチェックできます。ただし、これらの項目が当てはまるからといって必ずしもワキガであるとは限らないので、気になる場合は医師の診察を受けましょう。

脇のボトックス注射の概要

ボトックス注射についてご存じでしょうか?ボトックスを脇に注射すると、汗の分泌量を減らせるとされています。ここでは、脇のボトックス注射について解説します。

ボツリヌストキシン(ボトックス)とは

ボツリヌストキシン(ボトックス)とは、医療や美容分野で広く利用される特殊なタンパク質です。ボツリヌストキシンは、特定の細菌が生成する毒素を弱めたもので、筋肉の収縮を抑制する働きが期待できます。

ボトックスは、アメリカのFDA(食品医薬品局)によって認可されており、その信頼性はすでに確立されています。また、手のひらなど皮膚の薄い部分の手汗を抑える効果があります。

これらの特性により、ボトックスは多汗症やワキガの治療に広く用いられています。

脇のボトックス注射の仕組み

脇汗は、脇の神経細胞が活性化し、アセチルコリンという物質を放出することでアポクリン汗腺が刺激され、汗が分泌されます。ボトックス注射は、含まれるA型ボツリヌストキシンが神経の活動を弱める効果が期待できるため、脇に注射することで神経細胞の活動が弱まり、アセチルコリンの放出が減少します。

これにより、アポクリン汗腺が刺激されず、汗の分泌が抑制されます。

メリット

脇のボトックス注射にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

施術後の傷跡がほとんど残らない

注射針を使用するため、施術後の傷跡がほとんど残らないことがメリットの一つです。
注射は痛みが少なく、痛みに敏感な方でも麻酔クリームを使用すれば、ほとんど痛みを感じることはありません。

施術時間が短い

また、施術時間が短いこともメリットだといえるでしょう。

ボトックス注射の施術は、約15分程度で終わります。
麻酔クリームを使用した場合でも、全体の施術時間は約1時間未満といわれています。

ダウンタイムがほぼない

ボトックス注射のダウンタイムはほぼなく、施術直後から通常生活とほとんど変わらず過ごせます。施術を受けたことを周囲の人に知られたくない方にとっても安心です。

脇の臭いも軽減できる

そして、ボトックス注射は汗の量だけでなく、脇の臭いも軽減できるとされています。

デメリット

ボトックス注射は脇汗の治療に広く用いられていますが、その一方でいくつかのデメリットもあります。これらのデメリットをしっかり理解したうえで、ボトックス注射による施術を受けるかどうか選択することが重要です。

ボトックスの効果は一時的

ボトックスの働きは一時的であり、一般的に4〜9ヶ月程度で減退します。
そのため、働きを継続的に維持するためには、再投与が必要となります。

これにより、治療のコストが長期的にかかる可能性があります。

頻繁な投与は耐性が生じやすい

ボトックスは毒素製剤であるため、体がボトックスに対する抗体を生成し、耐性が生じることがあります。頻繁な投与は、より耐性が生じやすいとされています。

脇のボトックス注射でワキガは治療できる?

ボトックス注射は、ワキガの症状を一定期間改善する効果が期待できます。しかし、ボトックス注射は汗の分泌を完全に止めるわけではなく、また細菌の増殖を抑える効果も期待できません。

そのため、ワキガの臭いを解消するには、アポクリン汗腺を除去する手術など、ほかの治療法を検討する必要があります。

ワキガに悩む方は医師と相談し、自身の症状に合った治療法を選択することが重要です。ボトックス注射の効果と限界を理解したうえで、治療法を選択しましょう。

腋窩多汗症の概要

ボトックス注射は、ワキガの治療というよりは、腋窩多汗症の治療が主となります。前述した通り、ボトックスには汗の分泌を抑える働きが期待できるためです。腋窩多汗症について解説します。

腋窩多汗症は、脇の下から異常に多量の汗が分泌される病状です。多量の汗の分泌は、体温が高まっているときや、精神的ストレスがあるときに顕著になります。腋窩多汗症は、ワキガの原因となる場合もあります。

多汗症は、特に思春期以降に発症し、日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼすことがあります。中でも、腋窩多汗症は汗が脇に集中するため、人前での活動や仕事への集中力に影響を及ぼすことがあり、病状の理解と適切な対策が求められています。

腋窩多汗症治療のボトックス注射は保険適用

腋窩多汗症が日常生活に重大な支障を及ぼす場合、ボトックス注射は保険適用となる可能性があります。保険適用の基準は次のとおりです。

  • 局所的に過剰な発汗が明らかな原因のないまま6ヶ月以上認められ、次2項目以上が当てはまる
  • 発症が25歳以下である
  • 左右対称性に発汗がみられる
  • 睡眠中は発汗が止まっている
  • 1回/週以上の多汗のエピソードがある
  • 家族歴がみられる
  • それらにより日常生活に支障をきたす

さらに、上記が当てはまるうえで、症状の程度が次のうちの3、4に該当する場合は保険適用での治療が可能とされています。

  1. 発汗は全く気にならず、日常生活に支障がない
  2. 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
  3. 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
  4. 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある

これらの基準を満たす場合、ボトックス注射による治療は保険適用となり、治療費は3割負担で20,000〜30,000円程度です。

保険適用は医師の判断となるため、腋窩多汗症に悩んでいてボトックス注射を検討している方は医師に相談してください。

ボトックス注射以外のワキガの治療法

ボトックス注射以外にも、ワキガの治療にはさまざまな種類があります。代表的な2種の治療法を紹介します。

塩化アルミニウム外用療法

塩化アルミニウム外用療法は、20〜50%の塩化アルミニウム溶液を寝る前に腋窩に塗布します。

通常は1日1回の使用で十分ですが、必要に応じて日中にも使用できます。治療効果が期待できるまでには2〜3週間程度かかるため、継続的な使用が推奨されます。

また、汗の量が多い人は、塩化アルミニウム溶液を塗布した後にサランラップなどで覆う密封療法も効果的とされています。

手術

手術は、臭いが強い場合に適応となります。手術の方法は腋窩を1〜2ヶ所切開し、皮膚の裏側に存在するアポクリン腺を取り除きます。その後、皮膚を縫合し、中に血溜まりを防ぐドレーンという管を差し込み、ガーゼで圧迫します。

手術後は、創部の安静が重要なため、ガーゼを脇の下に大量に押し当てて固定します。また、手術後数ヶ月の間は皮膚の引きつれや色素沈着などが生じる場合があります。その後は徐々に良くなりますが、手術の痕跡は残ります。

これらのことを考慮のうえ、手術を行うか検討する必要があります。

まとめ

ここまでワキガや脇のボトックス注射について解説してきました。ワキガや脇のボトックス注射についての要点をまとめると次のとおりです。

  • ワキガは腋臭症とも呼ばれ、脇から独特な体臭を発する状態を指す
  • ボトックス注射で使用されるボトックスは、特定の細菌が生成する毒素を弱めたもので、筋肉の収縮や汗の分泌を抑制する働きが期待でき、脇のボトックス注射は、傷跡がほとんど残らないメリットや維持するためには再投与が必要なデメリットなどがある
  • 脇のボトックス注射は、ワキガの症状を一定期間改善する効果が期待できる

これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。

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小松 磨史

東京都

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