松村 奈津子 医師
2006年 近畿大学医学部奈良病院形成外科、2014年 総合東京病院および東京クリニック 形成外科非常勤、2015年 大手美容クリニック銀座院院長(上記兼務)、2016年 形成外科専門医取得、2021年11月 Lua Na clinic開設
日本形成外科学会形成外科専門医、日本形成外科学会レーザー分野指導医
うまれつきのあざは、蒙古斑と呼ばれる赤ちゃんのお尻などに見られる青あざがよく知られており、知っている方も多いのではないでしょうか?しかし、うまれつきのあざには青あざのほかにも、茶あざや黒あざ、白あざ、赤あざなどの種類があります。
あざは種類によって発生する要因や治療法が異なり、放置してよいものから適切な治療が必要なものまでさまざまです。今回は、あざの中でも特に先天性のあざについて詳しく解説します。
あざ(痣)とは
あざとは、色素沈着や血管の異常増殖によって引き起こされる、皮膚に見られる色の斑点を指します。この色の変化は、青、茶、黒、白、赤などさまざまで、周囲の皮膚と異なる色をしています。
基本的にはうまれつきのものか、幼少期に現れて色の変化がずっと残ってしまうものをあざといいます。ぶつけたことが原因で皮膚内で内出血を起こし、時間の経過とともに自然に消える皮下出血(うちみ)や、色素沈着を起こして皮膚の色が変わるシミについてはここでは取り扱いません。
また、あざの医学用語として母斑という病名が使用されていますが、母斑は皮膚の奇形もしくは皮膚の奇形にもとづく良性腫瘍と考えられているもので、すべてがあざと同一の意味のものを指しているわけではありません。
うまれつきあざができる原因
ここからは、うまれつきあざができる原因について解説します。
うまれつきのあざは大きく青あざ、茶あざ、黒あざ、白あざ、赤あざに分けられます。
メラニンを発生要因とするあざ
メラニン由来であざができているのが青あざ、茶あざ、黒あざ、白あざです。
人の皮膚は、外側から表皮、真皮、そして真皮の下に皮下組織がある3層構造になっています。表皮にはメラニン色素を生成するメラノサイト細胞があり、メラニンの量が多いほど皮膚は濃い色になります。
メラノサイトは通常は表皮に存在しますが、まれに真皮にも存在し、真皮でメラニン色素を作り出すことがあります。真皮に作られたメラニン色素によって皮膚の色が変化して見え、この状態があざと呼ばれます。
メラニン色素の発生箇所や増殖の異常であざができているのが青あざ、茶あざ、黒あざです。逆にメラニン色素を作っているメラノサイトが消失、あるいは機能停止した状態が白あざです。
あざの色とメラニンの関係
上記の通り、青あざ、茶あざ、黒あざはメラニンと深い関係があります。
あざの色はメラニン色素ができる皮膚の場所によって決まり、メラニン色素が真皮の浅いところに作られるとあざは茶色っぽく、メラニン色素が真皮の深いところに作られるとあざは青っぽく見えます。また、メラニン色素の量が多ければあざの色は濃くなり、少なければあざの色は薄くなります。
メラニンを発生要因としないあざ
一方、赤あざはメラニンではなく血管が異常に増えたり奇形になったりした状態によるもので、赤血球に含まれるヘモグロビンが赤色を呈し、皮膚を赤く見せている状態です。赤あざは血管腫とも呼ばれています。
具体的なあざの種類、原因、治療法
ここからは、青あざ、茶あざ、黒あざ、白あざ、赤あざについて、それぞれの具体的な種類、原因と治療法について解説します。
うまれつきあるあざ①:青あざ
まずは、青あざの種類と原因、治療法について解説します。
蒙古斑
蒙古斑(もうこはん)は、胎児期にメラノサイトが表皮へ移動する途中で真皮内に留まり、これが原因で生まれたときに青いあざとして一つまたは複数見られる現象です。好発部位はお尻や背中で、形状や境界は不明瞭なことが多く、中心部は青色を帯び、外側に向かって色が薄くなり、境界ははっきりしません。
多くは生後2歳頃までに色が濃くなり、10歳頃までに自然に消失するため治療の必要はありません。
異所性蒙古斑
蒙古斑と異所性蒙古斑の違いは、あざのできる部位です。 お尻や背中によく見られる蒙古斑と違い、異所性蒙古斑は腕や手の甲などお尻や背中、腰以外にできる青あざです。異所性蒙古斑の原因は、蒙古斑と同様に胎児期のメラノサイトの影響が関与しています。
異所性蒙古斑は残存することもあります。治療の必要性は個々の症例によりますが、よく見える部位にあって精神的苦痛がある場合はレーザー治療によるあざの除去が推奨されます。
レーザー治療はいずれも保険適用での治療が可能です。レーザーの種類により多少の経過や治療回数に違いがあります。
太田母斑
太田母斑は黄色人種の女性に多く見られ、日本では1,000人に1〜2人の発生率とされています。皮膚科学教授の太田正雄氏が発見したことにより、その名がつけられました。
点状の青あざが顔やおでこ、目のまわりから頬、上唇の領域に限って現れるという特徴があります。生後すぐに発生する早発型と、思春期以降に発生する遅発型の2つがあり、いずれも一度発症すると自然消退せずに残存します。
異所性蒙古斑と同じくレーザー治療が行われ、保険適用での治療が可能です。しかし、太田母斑が目の白目部分に発生している場合には、眼球へのダメージを考慮してレーザー治療は行えないとされています。
青色母斑
青色母斑(せいしょくぼはん)は青あざの一種で、ほくろよりも青みが強く、多くは手の甲や足の甲、顔に現れます。大部分は10mm以下で少し硬く、やや盛り上がっていることがあります。少しずつ大きくなり悪性化する可能性があること、リンパ節転移を起こす可能性があることから、経過観察と検査、必要に応じた治療が必要です。
治療方法としては切除手術が多く、術後には病理組織検査が行われます。悪性化する心配がなく小さいものはレーザー治療が検討されることもあります。保険が適用されるかは状態によるので、皮膚科や形成外科で相談してみましょう。
うまれつきあるあざ②:茶あざ
続いては、茶あざの種類や原因、治療法について解説します。
扁平母斑・ベッカー母斑
扁平母斑は、メラニンが皮膚の浅いところに増えることによって形成される扁平な茶色のあざです。うまれつき存在することが多いようですが、思春期になってから現れることもあり、肩に発生する発毛性の遅発性扁平母斑はベッカー母斑と呼ばれます。扁平母斑が悪性化することはないため、特に治療の必要はありません。
見える場所にあるなど治療を検討する場合、レーザー治療が行われます。治療は保険適用での治療が可能です。
レーザー治療の効果は個人によって異なりますが、遅発性扁平母斑では効果が高く、先天性扁平母斑を成人が行った場合の再発率は高いといわれます。しかし、先天性扁平母斑でも皮膚が薄い赤ちゃんや幼児、小児のうちにレーザー治療を行うと効果を認めることが多いため、うまれつき扁平母斑がある場合には早めに皮膚科や形成外科に相談することをおすすめします。
表皮母斑
表皮母斑は、出生時または幼少時から見られる褐色のざらざらしたあざであり、主に頭部や頸部、身体、手足にみられます。表皮の過形成によって生じるこの病変は、自然に薄くなることは期待できません。悪性化することはほとんどなく、経過観察を選択することもできます。
治療法としては、高周波メスやレーザー治療が行われ、母斑が小さい場合は局所麻酔下での手術が可能とされていますが、大きな母斑の場合は全身麻酔下での手術が必要とされます。基本的に治療が保険適用されます。
また、あざを切除したあとも場所や体質によっては跡が残ります。形成外科や美容外科では、保険適用外で跡を目立たなくする治療も行われているため、手術後の見た目が気になる方はそちらも検討してみましょう。
うまれつきあるあざ④:黒あざ
続いては、黒あざの種類別に原因と治療法について解説します。
色素性母斑・母斑細胞性母斑(ほくろ)
色素性母斑(しきそせいぼはん)・母斑細胞性母斑は、大きさや形状はさまざまで、平坦なものから盛り上がったものまであり、いわゆるほくろとされています。
表皮と真皮の境目や真皮内に存在する母斑細胞がメラニン色素を作り出すことで、褐色や黒色に見えるといわれています。悪性化する可能性があるため、大きなものや色の変化、形状の不規則性、境界の不明瞭さなどが見られた場合は、早めに診察を受けることが重要です。
治療法は、小さな母斑にはレーザー治療、メスによる切除などが適用され、大きい母斑には切除して縫い合わせたり、皮膚移植を行ったりすることもあります。
また、色素性母斑・母斑細胞性母斑のレーザー治療は、基本的には自由診療となっています。
巨大色素性母斑
巨大色素性母斑は、うまれつきの大きな黒あざで、成人で直径が20cm以上、乳幼児では頭脱色素性母斑部で直径9cm以上、体幹で直径6cm以上のものを指します。色素性母斑と同じくメラニン色素により、黒く見えるとされています。
先天性の場合、悪性黒色腫(メラノーマ)の発症リスクが高いため、早期の切除が検討されます。
治療にはドライアイスを母斑組織に押し当てて母斑細胞を死滅させるドライアイス圧抵療法や、自家培養表皮、数回に分けて切除する分割切除術、母斑の表面を削り取るキュレッテージ、他の部位から薄い皮膚を採取しそれを貼り付けて移植する植皮術、レーザー治療、少しずつ皮膚を伸ばしていくティッシュエキスパンダーなどさまざまな方法があります。治療方法は母斑の大きさやできた場所に応じて選択され、複数の治療法を組み合わせることもあります。
巨大色素性母斑のレーザー治療は縫合の傷跡が残らないというメリットがありますが、何度も繰り返し行う必要があり、完治も難しいとされています。また、色素性母斑・母斑細胞性母斑のレーザー治療と同じく、巨大色素性母斑も自由診療とされています。
うまれつきあるあざ⑤:白あざ
代表的なうまれつきの白あざには、脱色素性母斑(だつしきそせいぼはん)と呼ばれているものがあります。
脱色素性母斑は、うまれつきの白斑であり、好発部位は体幹部ですが、顔や首、上下肢にも見られます。白斑の形態は不規則で、円形や点状、帯状などさまざまで、皮膚の質感や感覚に異常はありません。原因は皮膚のメラノサイトの機能障害でメラニン色素をうまく生産できないためと考えられています。遺伝的な要因は関与しません。
明確な治療法は確立されていませんが、紫外線療法と外用療法(外用薬)を組み合わせて行う治療方法や、服や化粧品でカバーする方法、手術による除去などがあります。紫外線療法と外用療法(外用薬)を組み合わせて行う治療は、保険適用が可能な場合があります。
うまれつきあるあざ③:赤あざ
続いては、赤あざの種類別に原因と治療法について解説します。
イチゴ状血管腫
イチゴ状血管腫は皮膚の表面や内部にできる赤あざで、血管腫の一つです。血管腫とは血管の異常で血管が拡張したり増殖したりすることによってできる良性腫瘍です。
イチゴ状血管腫の原因ははっきりと解明されていませんが、未熟な毛細血管が増殖してあらわれる良性の腫瘍だと考えられています。イチゴ状血管腫は生後2〜3週間から発生し、6ヶ月から1年で急速に大きくなって盛り上がります。その後徐々に縮小しますが、一部は毛細血管拡張や皮膚萎縮を残すことがあります。
7歳以降に存在するものは自然に消えることはなく、手術が必要です。
退縮期のイチゴ状血管腫の場合は、レーザー治療がある程度有効とされています。イチゴ状血管腫は保険適用での治療が可能です。耳や鼻、口唇に生じた増殖期のイチゴ状血管腫の場合は、潰瘍や皮膚欠損を引き起こす可能性があり、緊急性がありますので早期の受診が必要です。レーザー治療が難しい箇所は、内服や注射薬での治療も行われます。
単純性血管腫
単純性血管腫は、皮膚内の細い血管が過剰に増えているために生じます。赤い色は血管内の血液によるもので、レーザー治療が有効とされています。顔や頭部に生じたものは成人になると盛り上がることがあり、上まぶたにできた場合は視力障害のリスクがあるため、速やかな治療が必要です。
単純性血管腫もイチゴ状血管腫と同じく保険適用での治療が可能です。レーザー治療は血管内の赤血球に熱エネルギーを送り込み、血管を焼灼することで行われます。効果は個人差があり、顔や頚部に生じたものでは70〜80%の効果が期待できるとされています。
サーモンパッチ
サーモンパッチは赤あざの一種で、先天性の毛細血管奇形によるものです。主に赤ちゃんの顔面に現れ、おでこから眉の間にかけて赤みが広がる赤あざで正中部母斑とも呼ばれます。
境界がはっきりしないでこぼこしていない平坦なあざで、この点がイチゴ状血管腫とは異なります。あざをつまんだり押したりすると、一時的に色が消えることもあります。
多くは生後2歳頃までに自然に治りますが、色調が濃い場合は残るケースもあります。治療が必要ない場合が多いようですが、色が濃く残る場合にはレーザー治療が検討されます。単純性血管腫などと同じように保険適用での治療が可能とされています。
ウンナ母斑
ウンナ母斑は赤あざの一種で、真皮の毛細血管が膨張することにより生じるといわれています。ウンナ母斑は頭部から頚部(うなじ)にかけて現れます。淡い赤色の平らな母斑で、逆三角の形を呈することも多く、盛り上がりはありません。
自然に消えることがほとんどですが、3歳までに消えない場合は成人しても残るといわれています。髪の毛に隠れて目立ちにくいことも多いようですが、気になる場合はレーザー治療が選択されます。ほかの赤あざと同じように保険適用が可能な場合があります。
まとめ
うまれつきのあざにはさまざまな種類があります。あざの発生には皮膚の色素斑であるメラニン色素が関与していることが多いです。
青あざや茶あざはメラニン色素が生成される真皮の深さによって青や茶色に見えます。基本的には悪性化するものは少ないが、残存する可能性があるため、一度形成外科、皮膚科、小児科の受診を推奨します。
黒あざは一般的にほくろと呼ばれるものや、成人で直径が20cm以上の巨大色素性母斑とよばれるものがあり、悪性化する可能性を考慮して治療の検討が必要な場合もあります。
白あざはメラニン色素がうまく作られないことにより皮膚の色が白色を呈す症状で、明確な治療法は確立されていません。
一方、メラニンを発生要因としない赤あざは、血管の異常による血管腫や、先天性の毛細血管奇形などによるものが考えられます。イチゴ状血管腫や単純性血管腫は自然に消えず残ることもあるため、皮膚が薄い赤ちゃんや幼児、小児のうちに治療を行うことが検討されることもあります。
あざの治療法は個々の状態でも変わり、早期からの治療が推奨されているものもあります。うまれつきのあざを治療する場合は保険適用での治療が可能なことが多いため、皮膚のあざや色の異常を発見した場合は、形成外科、皮膚科、小児科を受診して相談してみましょう。
参考文献