やけどの処置の方法は?応急処置・病院での処置を医師がわかりやすく解説

やけどの処置の方法
この記事を監修した医師

宇井 千穂 医師

やさしい美容皮膚科・皮フ科 秋葉原院

北里大学医学部卒業、公立福生病院で初期研修終了、平成24年土佐清水病院皮膚科にて勤務。皮膚科医として勤務しながら、銀座の美容皮膚科クリニックでも勤務。現在、やさしい美容皮膚科・皮フ科 院長。

日本美容皮膚科学会、日本レーザー学会、日本胎盤臨床医学会、アラガンボトックスビスタ注入認定資格、アラガンジュビダーム注入認定資格、JAPAN MENSA会員、Iuternational MENSA会員

やけどは日常生活で起こり得る怪我の一つです。一括りに「やけど」といわれることが多いですが、小さなものから重度のものまで、その種類と深さは多岐にわたります。やけどの種類と深さに合わせた正しい処置を行うことで、痛みの軽減と回復の早期化につなげることができます。

今回は、日常生活での小さなやけどから専門的な治療が必要な重度のやけどなどの種類について、適切な応急処置方法や医療機関での治療までわかりやすく解説します。

目次

やけどの種類

やけどの種類 一口に「やけど」といっても、さまざまな種類があります。ここでは、一般的なやけどの種類について解説します。

熱によるやけど

熱によるやけどは、家庭や職場でも遭遇しやすいタイプのやけどです。熱湯、火、熱い物体に触れることや、蒸気や熱風にさらされることによって発生します。具体的には、料理中に油がはねる、熱湯をこぼす、アイロンやストーブに触れる、お風呂の湯気やオーブンの熱風に触れるなど、日常のさまざまなシーンで起こり得ます

後述しますが、熱によるやけどは表面的な損傷から深い組織への影響までさまざまな程度があります。やけどの深刻さは、接触した物の温度、接触時間、およびその部位の皮膚の厚さによって異なります。

日焼け

日焼けは、主に紫外線(UV)の影響による肌へのダメージのことを指します。屋外で長時間の活動をする際、中でも特に夏季や日差しが強い日に紫外線による影響を受けやすくなります。また、日焼け止めを塗り忘れた場合にも日焼けのリスクは高まります。日焼けは一般的に美容への影響を懸念されることが多いですが、問題はそれだけではありません。

日焼けは肌の赤み、痛み、時には水ぶくれなど、肌への損傷を引き起こすことがあります。また、長期的には皮膚がんのリスクも増加させるため、日焼けに対する意識と予防は非常に重要です。紫外線は季節を問わず影響を与えるため、冬でも日焼け止めを使用したりUVをカットしやすい服装で過ごしたりすることがおすすめです。

低温やけど

低温やけどとは、一般的な熱によるやけどとは異なり、相対的に低い温度で起こるやけどです。44℃〜50℃程度の温度に皮膚が直接、数分から数時間触れ続けることで発生します。特に、就寝時など長時間にわたって同じ部分の皮膚が温源に接触している場合に発症しやすいです。50℃に近い温度の場合は数分の接触でもやけどが生じることがあり、皮膚が薄い人の場合はさらに発生しやすくなります。

低温やけどは皮膚の表面ではなく、より深部で進行します。44℃〜50℃の温度は短時間であれば痛みを感じにくく、寒い時には心地よく感じられることもあります。しかし、長時間の間熱源と接触することで、自覚症状のないまま皮膚の奥を徐々に傷めていきます。低温やけどは重症化すると「赤みやヒリヒリ感」から始まり、「水ぶくれや痛み」を経て、「乾燥し感覚がなくなる」などの症状が現れます。重症化すると、皮膚移植が必要になることもあります。

化学やけど

化学やけどは、酸、アルカリ、溶剤などの化学物質が皮膚に接触した際に発生します。一般的には何らかの実験室や特定の工業プロセスでの作業中に発生する可能性が高いですが、家庭内でも洗剤や排水管クリーナー、脱色剤などを扱う際に発生することがあります。

化学やけどは接触した化学物質の種類や濃度、接触時間によって程度が変わり、軽度の刺激から重度の組織損傷に至るまで幅広い影響を及ぼします。化学物質を扱う際には適切な保護装置を着用し、取り扱いの指示を守り注意を払いながら作業することが重要です。

電撃傷

電撃傷は、電流が体を通過することによって生じるやけどです。家庭内の電気製品の使用方法が不適切である場合や、工事現場で電気設備を扱う場合、雷が直撃した場合など、さまざまな原因で発生します。電撃傷の特徴は電流が体を通過する際に内部組織にもダメージを与えることで、表面的な損傷だけでなく、神経や筋肉、心臓にも影響を及ぼす可能性があります。

電撃傷を防ぐためには、電気製品の安全な使用と保守が必要不可欠です。説明書に書かれていない使用方法や、やってはならないと書かれている使用方法は避けるようにしましょう。また、雷雨時には屋外活動を避けるなどの予防が重要です。

やけどの深さ

やけどの深さ やけどは、熱源の温度、接触時間、圧力、さらには皮膚の厚さなどの要因によって深さが異なります。特に、皮膚が薄い子どもや高齢者は同じ条件下でもより深い損傷を受けやすい傾向にあります。やけどは深さでⅠ度からⅢ度に分類されます。ここではそれぞれの深さについて解説します。

Ⅰ度熱傷

Ⅰ度熱傷は、損傷が表皮に限定されるやけどです。皮膚が赤くなり腫れることがありますが、水疱(水ぶくれ)は形成されません。痛みを伴いますが、通常は数日以内に自然に治癒し、傷痕を残さないという特徴があります。

Ⅱ度熱傷

Ⅱ度熱傷は真皮まで損傷が及ぶやけどで、その深さに応じて「浅達性Ⅱ度熱傷」と「深達性Ⅱ度熱傷」の2つに分けられます。

浅達性Ⅱ度熱傷

浅達性Ⅱ度熱傷では痛みが強く出現し、皮膚は赤くなり水疱(水ぶくれ)が形成されます。適切な治療を行えば約2週間で傷痕を残さずに治癒することが可能ですが、炎症後に色素沈着が残ることもあります。

深達性Ⅱ度熱傷

深達性Ⅱ度熱傷は水疱(水ぶくれ)が形成され、その下の皮膚は白色であることが多いようです。また、知覚神経の損傷により痛みが鈍く感じられることが特徴です。治療期間は2週間から1ヶ月以上必要となることもあり、傷痕が残ることが一般的です。浅達性と深達性の熱傷はしばしば混在し、経過によって深度が進行することもあります。

Ⅲ度熱傷

Ⅲ度熱傷は皮膚の全層にわたる重度のやけどで、場合によっては皮下脂肪層、筋肉、さらには骨まで達することもあります。水疱(水ぶくれ)は形成せず、血管傷害によって皮膚は白色から褐色、時には黒色に変化することがあります。Ⅲ度熱傷では皮膚の知覚神経が損傷してしまうため、意外にも痛みを感じないことが多いようです。Ⅲ度熱傷は感染のリスクが高いため、早期に壊死組織を除去することが必要です。

やけどの応急処置

やけどの応急処置 やけどをしてしまった場合は、適切な応急処置をすることが重要です。ここでは、やけどの応急処置についてステップごとに解説します。

流水で冷やす

やけどをした直後に最優先で行うべきは、やけどした部位を流水で冷やすことです。日本皮膚科学会では、やけど部位を衣服の上から15分から30分程度冷却<することを推奨しています。特に指先や脚など、特定の部位のやけどには1時間程度の冷却が有効とされています。一方で、日本創傷外科学会では水道水を用いた5分から30分の冷却を目安としています。

これは、やけどの程度や部位によって適切な冷却時間が異なることを意味していると解釈すると良いでしょう。冷却の際には、創部を優しく流水で冷やすことが重要です。氷嚢など過度に冷えたものは凍傷を引き起こす可能性があるため、使用は避けましょう。また、子どもや高齢者は、広範囲のやけど部位を流水で冷やすと低体温症になるリスクがあるため、特に注意が必要です。

患部を触らない

やけどをした部位は非常に敏感になっており、触ってしまうとさらなる損傷や感染のリスクも発生します。そのため、やけど部位は清潔に保つようにして、不必要に触れることは避けましょう。

特に、感染のリスクが高まるため水疱(水ぶくれ)ができている場合は絶対に破らないようにしましょう。やけどの患部はできるだけ自然な状態で保持し、医師の診察を受けるまで触らないようにすることが重要です。

アクセサリーなどを外す

やけどした部位の近くにアクセサリー(指輪、ブレスレット、腕時計など)をつけている場合は、速やかに取り外すようにしましょう。やけどにより患部が腫れると、アクセサリーが皮膚を圧迫し、血流を妨げてしまう可能性があります。

特に、やけどが手や腕にある場合は、指輪やブレスレットが患部の腫れを悪化させることがあるので注意が必要です。アクセサリーを速やかに外すことで患部への圧迫を防ぎ、やけどの症状の悪化を防ぐ効果が見込まれます。ただし、先述のように患部に直接触れることは避け、慎重に外すことが肝心です。

病院で受診する

やけどを負った後は、応急処置だけで終わらせずに早めに医療機関に相談することが非常に大切です。痛みが少ない、またはまったくないからといって、家庭での簡単な処置のみで様子を見ることは避けたほうが良いでしょう。たとえば、ストーブなどによるやけどなどでは見た目は軽症に見えますが、放置すると長期間の治療が必要になる場合もあります。

やけどの初期段階では軽い赤みや不快感がある程度なので油断してしまいがちですが、時間が経過するにつれて症状が悪化し、変色や感染のリスクが高まることもあります。特に「低温やけど」は初期症状が軽微に見えるため放置されがちですが、非常に危険です。軽度のやけどであっても病院で専門的な診断を受けることで潜在的なリスクを低減することができ、最適な治療方法を見つけられる可能性が高まります。

やけどの病院での処置

やけどの病院での処置 ここまで解説したように、やけどは決して軽視すべき症状ではありません。ここでは、やけどになった場合の病院での処置について解説します。

通院すべき診療科

まず、やけどの種類や程度に応じて適切な診療科を選ぶことが重要です。やけどの治療に関しては、次の診療科が関わることが多いです。

  • 皮膚科
  • 外科/形成外科
  • 救急科

皮膚科

皮膚科への受診は一般的な軽度のやけど(例えば日焼けや軽い熱傷)の治療に適しています。

外科/形成外科

より深いやけどや広範囲のやけどの場合、外科や形成外科の専門知識が求められます。これらの診療科では創傷管理および、必要に応じて皮膚移植や再建手術などが実施されます。

救急科

急性のやけどや広範囲のやけど、特に生命を脅かす可能性のあるやけどの初期治療においては救急科への受診が必須です。救急科ではやけどの即時評価や初期管理が実施され、必要に応じて他科への迅速な紹介も行われます。このように、症状ややけどの程度に応じて適切な医療機関や診療科を選ぶことが、効果的な治療への第一歩となります。

Ⅰ度熱傷の場合

Ⅰ度熱傷は表皮のみが損傷していることが特徴です。こうした場合の治療では、炎症を抑える薬を用いながら皮膚の環境を整え、自然な表皮の再生を促します。適切な治療を行えば、傷痕を残さずに治癒することが可能です。

浅達性Ⅱ度熱傷の場合

浅達性Ⅱ度熱傷は水疱(水ぶくれ)が生じる程度の損傷が特徴です。表皮のバリア機能が完全に失われているため、炎症を抑えつつ細菌感染を防ぐことが治療のポイントです。時間の経過と共に深達性Ⅱ度熱傷やⅢ度熱傷へと進行する可能性があるため、状況を慎重に観察することが重要です。

深達性Ⅱ度熱傷・Ⅲ度熱傷の場合

深達性Ⅱ度熱傷やⅢ度熱傷では、再生に必要な細胞が損傷または失われているため、塗り薬や創傷被覆材だけでは後遺症を残す可能性が高くなってしまいます。これらの場合では熱によって死んだ組織を取り除く処置が必要で、局所麻酔を使用することもあります。広範囲の深いやけどや機能的に重要な部位のやけどの場合は、専門的な手術や皮膚移植手術が必要となることもあります。

まとめ

やけどは日常生活において誰もが遭遇する可能性がある怪我です。軽度のものから深刻なものまで、その種類と程度は多岐にわたります。

重要なことは、やけどを受けた際に適切な応急処置を施し、必要に応じて専門の医療機関に迅速に相談することです。また、やけどの程度に応じて皮膚科、外科、形成外科、救急科などを受診することが最終的な回復に大きくつながります。

参考文献

  • やけど(熱傷)|一般社団法人 日本創傷外科学会 一般の皆様へ
  • やけどの治療
  • この記事を監修した医師

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