私たちは日常生活の中で、予期せぬ手のひらのかゆみに遭遇することがあります。手のひらのかゆみはささいなものが原因の場合もあれば、皮膚疾患や全身性の疾患のサインである可能性もあります。適切な対応をすることでかゆみを和らげたり、さらなる肌のトラブルを防ぐことが可能です。
今回は、手のひらのかゆみを引き起こす主な原因と自宅でできる簡単な対処法、さらには病院を受診すべきかどうかの判断基準について解説します。
手のひらがかゆくなる主な原因
手のひらのかゆみは、日常生活の中で発生するさまざまな要因によって引き起こされます。ここでは、その主な原因として、乾燥、汗や汚れ、洗剤などによる刺激の3つを挙げ、それぞれについて詳しく解説します。さらに、病気が原因で痒みが発生している場合についても紹介します。
- 乾燥
- 汗や汚れ
- 洗剤などによる刺激
- 皮膚の病気
- その他の病気
乾燥
乾燥は、手のひらのかゆみを引き起こす最も一般的な原因の一つです。特に寒い季節や空調によって室内の乾燥が激しくなる時期には、肌の水分が失われやすくなります。
肌の保湿機能が低下すると肌に小さな亀裂が生じ、結果としてかゆみや赤みが発生することがあります。また、加齢によって肌が乾燥しやすくなることも手のひらのかゆみを引き起こす一因となります。
汗や汚れ
手のひらは日常生活でさまざまな物に触れるため、汗や汚れが溜まりやすい部位です。特に暑い季節や手を動かす作業を長時間行った後には、汗を多くかきます。
汗や汚れが肌に長時間留まると肌を刺激し、さらに雑菌が繁殖するためにかゆみを引き起こす原因になり得ます。また、汗に含まれる塩分が肌を刺激することもあります。
洗剤などによる刺激
日々の生活の中で使用する洗剤や化学物質は手のひらに直接触れることが多く、肌を刺激してかゆみや発疹を引き起こすことがあります。特に洗濯洗剤や食器用洗剤といったアルコール含有の消毒液などは、肌に対して強い刺激を与える可能性があります。
皮膚の病気
手のひらのかゆみが皮膚の病気によるものである場合も少なくありません。皮膚疾患にはさまざまな種類があり、それぞれが特有の症状を引き起こします。例えば、接触皮膚炎や汗疱(かんぽう)、手湿疹などが代表的です。これらの疾患はただのかゆみだけでなく、赤みや皮膚のひび割れ、そして時には水ぶくれや膿を伴うこともあります。
その他の病気
手のひらのかゆみは、皮膚の問題ではなく全身性の疾患の初期症状である場合もあります。たとえば、糖尿病や腎機能障害、肝機能障害といった病気では、体内の毒素や代謝物質の異常な蓄積が皮膚に影響を及ぼし、かゆみを引き起こすことがあります。また、甲状腺機能の異常や、血液の病気である貧血やポリチーミア(赤血球増加症)もかゆみの原因となることがあります。
これらの病気はかゆみ以外にも特有の症状を伴うことが多いため、手のひらのかゆみのほかにも気になる症状がある場合は医療機関を受診することが大切です。早期発見、早期治療により、健康への影響を最小限に抑えることができます。
手のひらがかゆいときの応急処置
続いて、手のひらにかゆみがある際に自分でできる簡単な応急処置の方法を3つ解説します。
- ハンドクリームで保湿する
- 市販の薬を使う
- 水仕事の際は手袋を着ける
ハンドクリームで保湿する
先述のとおり、手のひらのかゆみの最も一般的な原因の一つは乾燥です。乾燥した肌は細かい亀裂が生じやすく、これがかゆみの原因となります。乾燥が原因である場合は保湿が非常に重要です。ハンドクリームや保湿剤を使用して、定期的に手のひらを保湿しましょう。
保湿剤を選ぶ際は肌に優しい成分でできているものを選び、無香料や無着色などご自身の肌や好みに合わせた製品を選択することがおすすめです。就寝前に塗ると夜間の乾燥から肌を守り、かゆみの軽減につながります。
市販の薬を使う
手のひらのかゆみがひどい場合や皮膚に炎症を伴う場合は、市販の薬を使用することも選択肢の一つです。薬局で購入できる抗ヒスタミン薬やかゆみ止めクリームは、かゆみを和らげる助けになります。
ただし、これらの薬を使用する前には製品の説明文をよく読み、使用方法や使用量を守ることが大切です。また、肌に異常を感じたり症状が悪化した場合はすぐに使用を中止し、皮膚科で診断を受けることをおすすめします。
水仕事の際は手袋を着ける
日常生活での水仕事は手のひらの肌にとって負担となり、洗剤や水による刺激がかゆみや皮膚トラブルの原因となることがあります。水仕事をする際には、柔らかい手袋をした上にゴム手袋を着用することで直接的な刺激から肌を守り、かゆみや炎症のリスクを減らすことができます。
主な皮膚疾患
乾燥や汚れによるかゆみではなく、皮膚疾患が原因のかゆみである場合は特に注意が必要です。ここでは、かゆみの原因になる一般的な皮膚疾患について解説します。
- 手湿疹(主婦湿疹)(てしっしん)
- 汗疱(かんぽう)
- 掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)
- 手白癬(てはくせん)
- 接触皮膚炎
- 皮膚掻痒症(ひふそうようしょう)
手湿疹(主婦湿疹)(てしっしん)
手湿疹は手の皮膚が赤くなり、かゆみ、ひび割れ、時には水ぶくれができるといった特徴があります。頻繁に水や洗剤に触れることが原因となりやすく、家事や水仕事が多い人によく見られます。
保湿や保護手袋の着用など、日常的な予防策である程度対処することができますが、症状がひどい場合は皮膚科で診断を受けることが大切です。治療では、外用のステロイド剤などが処方されることがあります。
汗疱(かんぽう)
汗疱は主に手のひらや足の裏に小さな水ぶくれができる疾患で、ストレスが原因で発症することもあります。汗疱による水ぶくれは、強いかゆみを伴うことが特徴です。
治療にはかゆみを抑えるための薬、場合によっては外用のステロイド剤の局所的な使用が推奨されます。また、清潔に保って刺激から肌を守ることも大切です。
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)
掌蹠膿疱症は手のひらや足の裏に膿を含む水ぶくれが形成される疾患で、かゆみや痛みを伴うことがあります。慢性的な疾患であり、完治するのが難しい場合があります。治療には外用のステロイド剤や光線療法、場合によっては内服薬が用いられることがありますが、症状の管理と再発の予防が主な目的となります。
手白癬(てはくせん)
手白癬は一般に水虫として知られる皮膚病の一種で、主に足に見られる症状ですが、手にも感染することがあります。カビの一種である白癬菌が原因で起こり、肌が赤くなり、ひび割れ、かゆみ、ときには皮膚の剥離を伴うことがあります。
手白癬の治療には抗真菌薬の塗布が一般的です。市販の抗真菌クリームや症状が重い場合は、医師の処方による薬を使用します。感染の拡大を防ぐため、感染した部分を清潔に保つことが大切です。
接触皮膚炎
接触皮膚炎は、特定の物質に皮膚が触れたことによって生じる炎症反応です。接触皮膚炎には2つのタイプがあります。一つは刺激性接触皮膚炎で、もう一つはアレルギー性接触皮膚炎です。
刺激性接触皮膚炎は、化学物質や洗剤などの刺激物によって直接肌が傷つくことで起こります。一方、アレルギー性接触皮膚炎は、特定の物質に対する体の過敏反応によって発生します。症状としては赤み、かゆみ、腫れ、水ぶくれが特徴です。
原因となる物質との接触を避けることが主な対策となりますが、必要に応じて外用のステロイド剤や抗ヒスタミン薬が用いられることもあります。
皮膚掻痒症(ひふそうようしょう)
皮膚掻痒症は、特定の皮膚病が見られないにもかかわらず強いかゆみを伴う状態を指します。こうしたかゆみは、内科的な疾患、例えば肝機能障害や腎不全、甲状腺機能異常といった全身疾患の徴候である場合があります。また、加齢による肌の乾燥や、心理的ストレスが原因で発生することもあります。
治療は根本的な原因に対処することが中心となりますが、かゆみを和らげるために保湿剤の使用や抗ヒスタミン薬の投与が行われることがあります。原因が特定できない場合も少なくないため、対処療法が主となることも多いです。
手湿疹(主婦湿疹)とは
ここでは、かゆみを引き起こす皮膚疾患として特に身近なものである手湿疹(主婦湿疹)について具体的に解説します。
概要
手湿疹は手の皮膚が炎症を起こしている状態を指し、日常生活でよく見られる皮膚の問題の一つです。
手湿疹は、外部からの刺激やアレルギー反応によって引き起こされることが多く、日常生活でのさまざまな物質によって手のひらに炎症が発生します。手のひらの炎症は皮膚のバリア機能が低下し、外部からの刺激に対して脆弱になることで悪化することがあります。
よって、手湿疹の症状は軽度のかゆみから生活に支障をきたすほど重度なものまで、幅広く現れます。
手湿疹の種類
手湿疹は、症状によって主に「乾燥型」と「湿潤型」の2つのタイプに分類されます。乾燥型は特に秋から冬にかけて、湿潤型は春から夏にかけてよく発生します。
乾燥型手湿疹では手のひらや指に乾燥とかゆみが見られ、症状が進行すると皮膚にひび割れが生じたり、皮膚が硬化して指紋が見えにくくなることもあります。そのため、肌の保湿が非常に重要となります。
一方で、湿潤型手湿疹は手のひら、指、または手の甲に小さな発疹や水ぶくれが現れることが特徴で、強いかゆみを伴うことがあります。発生した水ぶくれが破れると細菌感染のリスクが高まるため、適切なケアが必要です。
予防と対策
手湿疹の予防と対策は、適切なスキンケアに焦点を当てることから始まります。日常的に保湿剤を利用することで皮膚のバリア機能を強化し、乾燥や外部刺激に対する抵抗力を高めることができます。
炎症によるかゆみや赤みが発生した場合はステロイド外用薬の使用が有効であり、これにより炎症を抑え、症状の改善を図ることができます。かゆみが強い場合は、抗ヒスタミン薬の内服も効果的です。
また、手湿疹の原因となる物質を特定することも、予防策の一環として重要です。アレルギー性接触皮膚炎の場合はパッチテストを行い、反応を示した物質を避けることで予防が可能になります。
手のひらがかゆいとき病院は受診するべき?
多くの場合、手のひらのかゆみは自宅での簡単な対処法で改善することが可能ですが、特定の状況や症状が見られる場合は専門の医師の診察を受けることが重要です。
病院へ行く要否
手のひらのかゆみが一時的で特定の外部刺激によるものと判断できる場合は、自宅でのケアで十分なことが多いです。しかし、かゆみが持続したり、日常生活に影響を及ぼすほどの強さである場合や皮膚に明らかな変化が見られる場合は、皮膚科で診察を受けることがおすすめです。
また、かゆみが全身に広がっている、あるいはかゆみ以外にも発疹や腫れ、痛みなどの症状が伴う場合は、早急に医療機関を受診する必要があります。
受診の目安
数日間かゆみが続き、自宅でできるケアによる改善が見られない場合や、かゆみが急激に悪化した場合は、症状に対するケア方法が間違えている可能性もあります。早めに皮膚科で診察してもらいましょう。
また、皮膚に赤みや腫れ、水ぶくれ、ひび割れといった明らかな変化がある時も医師の診断が必要です。かゆみが全身に広がり、発熱や倦怠感、関節痛など、ほかの症状を伴う場合や手のひら以外の部位にも症状が見られる場合には、全身性の疾患やアレルギー反応、ほかの重要な健康問題を示している可能性があります。速やかに医療機関を受診するようにしましょう。
まとめ
手のひらのかゆみは、日常生活のさまざまな要因によって引き起こされます。日頃から保湿を心がけ、刺激物質との接触を避けることが対処の基本ですが、症状が持続したり、ほかの症状を伴う場合は皮膚科で診断を受けることが重要です。
早期に適切な対処を行うことでかゆみを和らげ、健康な肌状態を保ちましょう。
参考文献