熱いものによる熱傷のほかに、湯たんぽなどの60℃前後の比較的低い温度で起こる低温熱傷、スキー場などの寒冷による凍傷など、温度による皮膚の障害は多岐に渡ります。これらを総称したものが、いわゆる「やけど」です。
一口に「やけど」といっても、程度が軽いものから重いものまであるため、自分が受けたやけどの程度や、どのように対処すればよいかわからない方も少なくありません。また、薬局などに出回っているやけどの市販薬かわからない方もいるでしょう。
今回は、やけどの分類や対処法・市販薬の選び方について解説します。
臨床症状によるやけどの深度分類
一般的にやけどが重症であるかどうかの判断は、熱傷面積と熱傷深度で判定します。治療法を決める分類の代表は熱傷深度、すなわちやけどの「深さ」で判断され、次のように3つに分類されます。
- I度熱傷
- II度熱傷(浅達性と深達性に区別)
- II度熱傷
やけどは深さによって治療法が異なります。ここでは、各分類別に症状・主な治療法を詳しく解説します。
I度熱傷
I度熱傷は、皮膚の一番浅い場所である「表皮」内のみに限局したやけどです。痛みを感じ、皮膚が赤くなります。
個人差はありますが、通常3〜4日程度で治癒し、傷跡を残さず治ります。炎症を抑える軟膏を使用したり、皮膚を保護する治療を行います。
浅達性II度熱傷
浅達性II度熱傷は表皮よりも深い場所にある「真皮」の上層までやけどが達した状態です。強い痛みを感じ、水疱ができ、水疱の下が赤くなることが特徴です。
水疱は、数日経ってから膨らんできますが、ある程度まで膨らんだ後は水疱内の水分は自然に皮膚に吸収されることがほとんどです。軟膏治療などの適切な処置を行うことで2週間前後で傷跡を残さず治癒します。
深達性II度熱傷
深達性II度熱傷は、「真皮」の深層、皮下組織の近くまで達したやけどです。強い痛みを感じることが多いですが、痛みがなければより深いと考えます。水疱を形成することが多く、水疱が自壊といって破れることもあります。皮膚は赤みを帯びている際には浅達性、深達性の区別がつきにくいことがありますが、水疱の下は白色の場合には、深達性と判断します。
深達性II度熱傷では、1ヵ月以上の治療が必要になることもあり、治療を行っても傷跡が残ることも多いです。I度熱傷や浅達性II度熱傷と同様に軟膏治療や被覆剤を用いて治療を行いますが、広範囲の場合や、部位によっては皮膚移植手術が必要となることもあります。
III度熱傷
III度熱傷は、皮膚の大部分や皮膚の一番下層にある「皮下組織」まで及ぶやけどです。III度熱傷では、血流が遮断されるため皮膚は白〜褐色を呈し、火災などの際には黒く焦げることもあります。やけどが皮下組織まで及び、知覚神経の損傷をともなう場合は痛みを感じず、やけど周囲の痛みが強いことがあります。
Ⅲ度熱傷の場合、壊死といって皮膚の組織の再生は見込めない状態となっているため、壊死組織の除去を行ってから皮膚移植が行われる場合があります。治療には1ヵ月以上かかることも多く、適切に治療を行っても肥厚性瘢痕やひきつれ、ケロイドが生じることもあります。
やけどの治療に市販薬を使っても大丈夫?
やけどの治療薬は、薬局やドラッグストアなどでも入手できます。そのため、病院に行くほどではないから市販薬で対応しようと考える方も少なくないでしょう。しかし、市販薬が使えるのは、I度熱傷に相当するやけどです。ここでは、市販のやけど治療薬について解説します。
市販薬が使えるのは軽いやけどの場合のみ
次のとおりのやけどの場合は市販薬でも治療できます。
- やけどの程度がI度熱傷程度で範囲が広くないもの
- 皮膚は赤く、水ぶくれが確認できないもの
- 痛みがある場合は、ヒリヒリする程度の痛みであること
しかし、水疱や痛みが強すぎる場合には、市販薬の使用はあまりおすすめできないことも事実です。実際のやけどの深さや重症度は見た目ではわかりにくく、自己判断が難しいためです。
自己判断で市販薬を使用してしまうことで適切な処置や治療が遅れ、傷跡が残ってしまうこともあります。市販薬で対応が可能なやけどかどうか迷ったときには、なるべく受診しましょう。どの科に行けばいいか悩むときは、皮膚科または形成外科がおすすめです。また、どちらかを選べる場合には、赤みや水疱だけであれば皮膚科へ、水疱が大きい場合や、顔のやけど、肩や肘などの関節をまたぐ場合、手足の広範囲のやけどや、子どものやけどの場合は形成外科を受診することがおすすめです。
判断が難しい場合は病院で診断・処方してもらう
やけどの深度判定は見た目ではわかりにくいため、数日経過しないと判断できないこともあります。I度熱傷のような浅いやけどの場合は赤くなるだけでわかりやすく、自然治癒が可能なことがありますが、水疱ができたり痛みを感じないやけどの場合には、皮膚科または形成外科を受診し治療をしてもらいましょう。
通常、I度熱傷の場合にはワセリンやステロイド外用剤、II度熱傷の場合はワセリン、ステロイド外用剤に加えて、感染予防のための抗生剤入りの軟膏や潰瘍を治す作用の軟膏、被覆剤などが処方されます。III度熱傷の場合は、外用では治癒を見込めないこともあり、入院治療や皮膚移植の対象となることがあります。
なお、民間療法は基本的におすすめしません。やけどに塗るとよいとされているアロエの使用など、不適切な薬を塗ることで創部に細菌が入り感染症を引き起こす可能性があるためです。皮膚感染を生じた場合は、炎症が皮膚深く及んでしまうだけではなく、全身に菌が播種する敗血症を引き起こすこともあり、注意が必要です。
やけどの市販薬の選び方
やけどの市販薬は、やけどを負った部位や、皮膚の状態に合わせて選ぶことが大切です。I度熱傷程度の軽いやけどや皮膚がヒリヒリする場合は抗炎症作用や抗菌作用のある塗り薬を使用しても構いません。やけどが治りかけでかゆみがある場合はかゆみ止めの薬を選ぶとよいでしょう。薬局の薬剤師にも相談しておきましょう。
やけどをしたときの応急処置・対処法
ここまで、やけどの分類とやけどの市販薬の選び方を紹介してきました。ここでは、応急処置について解説します。
やけどをしたときは、流水で冷やす・衣類を無理に剥がそうとしない・水ぶくれはなるべく破らない・アクセサリーは外す・できるだけ早めに病院受診をすることが重要です。
流水で冷やす
やけどをしたら、まずは創部を流水で冷やすことが大切です。流水で冷やすことによって、やけどが広範囲に及ぶことを防いだり、やけどの症状を抑えられたりします。また、やけどをした部分の痛みを和らげる効果も期待できるでしょう。15〜20分程冷やすことが推奨されています。
しかし、早く冷却しようと流水の代わりに過度に冷えた氷嚢を使用すると、凍傷となってしまったり、やけどをした皮膚と氷嚢がくっついて水疱が破れてしまったりする恐れがあるためおすすめできません。創部を冷やすときには、常温の水を使用することが望ましいでしょう。
また、小さな子どもの広範囲熱傷の場合は、急激に流水をかけてしまうことによって低体温症を起こしてしまうことがあります。冷やすときは、意識に変化がないか観察しながら冷やすことが大切です。
衣服を無理に剥がそうとしない
やけどをしてしまったときには、衣類を脱がさず衣類の上から流水で冷やすようにしましょう。慌てて衣類を脱がせてしまうことで熱の作用が続き、より重症度の高いやけどへ移行してしまう可能性があります。また、衣類と一緒に皮膚を剥がしてしまい、水疱を破いてしまうこともあります。
皮膚が剥がれたり、水疱を破いてしまったりすると、痛みが増強したり治癒するまでに時間がかかってしまう恐れがあるため、衣類は無理に脱がさず対処する必要があります。
水ぶくれはなるべく破らない
水ぶくれを形成しているやけどの場合は、水ぶくれは破らずに受診をすることが望ましいです。なぜなら、水ぶくれを破ることによって、破れたところから細菌が入り、感染を引き起こしてしまう危険性があるからです。水ぶくれは、細菌の侵入を防ぐ働きがあります。そのため、なるべく破らないようにしましょう。
水ぶくれが破れてしまったときは、まず清潔なガーゼで滲出液を押さえます。その後、皮膚が剥がれないように、ワセリンを塗布し、傷にくっつきにくいガーゼで創部を保護して病院を受診することがおすすめです。このとき、ラップでも代用できますが感染のおそれもあるため早めに受診しましょう。
アクセサリーを付けている場合は外す
やけどをしてしまったときにアクセサリーを装着している場合は、できるだけ外しましょう。
やけどは時間の経過とともに、腫れることがあります。特に指先のやけどは腫れやむくみが強くなることがあります。そのため、指先が腫れて指輪が抜けなくなってしまうといったケースも珍しくありません。最悪の場合はリングカッターで指輪を切断することになります。やけどをした際には、腫れが起きる前にアクセサリーを外すことが大切です。
できるだけ早く病院を受診する
やけどをしてしまったときは、皮膚科か形成外科の受診がおすすめです。子どもの広範囲の熱傷であれば、小児科と形成外科がある病院に受診しましょう。
皮膚の深いところまで達しているやけどの場合、放置すると傷跡が残ってしまうことがあります。そのため、やけどの程度が軽くても病院へ受診をすることがおすすめです。
おおまかにいうと、熱傷を受けた人の手のひらを1%として、II度熱傷が体の15%を超える場合や、III度熱傷が体の2%を超えた場合には、入院治療が必要となることもあります。
まとめ
やけどの分類や対処法、市販薬の選び方について解説しました。
やけどといっても、やけどの程度によって症状はさまざまです。実際、自分のやけどの程度がどの分類かは見た目ではわかりにくく、対処法を誤ると傷跡が残ってしまうこともあります。また、やけど直後は痛みや腫れがあまりなく軽症に感じていても、その後重症度の高いやけどに移行することもあります。治療が遅れると感染したり、治療が長引いたりしますので、早めに受診してください。
やけどしたときは、20分常温の流水で冷やし、早めに皮膚科や形成外科を受診してください。医療機関で適切な処置を受けることで、早い改善が見込めるでしょう。ぜひこの記事を参考にして、やけどの対処・改善に役立ててください。
参考文献