健康寿命を延ばす秘訣は何でしょうか?食事や運動、ストレス管理など、日常生活のさまざまな側面が関係しています。
本記事では、科学的根拠に基づいた健康維持のための生活習慣について、ファミリークリニックあざみ野 院長の石井 道人(いしいみちと)先生に伺いました。地中海食や和食の重要性、適切な運動の方法、ストレスや孤独の影響など、健康寿命を伸ばすために知っておきたいポイントを詳しく解説していただきました。
プロフィール
ファミリークリニック あざみ野 院長 石井 道人 医師
日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医
日本救急医学会認定救急科専門医
日本内科学会認定内科医
日本医師会認定健康スポーツ医
日本医師会認定認知症サポート医
キッズガーデンプレップスクール嘱託医
ファミリークリニック あざみ野
健康寿命に良い食べ物はありますか?
巷には「どんな食材がからだに良いのか」といった情報が溢れています。ただ、実際のところ、エビデンス(科学的根拠)がきちんとある「健康維持に効果的な食材」というのは、意外と多くありません。
たとえば、テレビ番組などでよくある「トマトにはリコピンが多く含まれているので健康に良い」といった情報も、実は鵜呑みにはできません。確かに、食品としてのトマトはからだに良いものですが、トマトに含まれる成分である「リコピンがからだに良い」というエビデンスはありません。そのため、リコピンの含有量を通常のトマトよりも大幅に増やした「機能性トマト」などは、からだに良いといえないのです。
健康に良いという複数の信頼できるエビデンスのある食材には次のものがあります。
- 魚
- 茶色い炭水化物(全粒粉、大麦、ライ麦、キヌア、玄米、雑穀類、蕎麦粉)
- オリーブオイル
- チョコレート
- コーヒー
- 納豆
- ヨーグルト
- 豆乳
- お茶
逆に、できるだけ摂らない方が良いものには次のものがあります。
- 豚肉や牛肉等の赤い肉
- 加工肉(ハムやベーコンなど)
- 白い炭水化物(パン、パスタ、ラーメンなどの小麦粉製品、白米)
- 飽和脂肪酸(動物性脂肪、マーガリンなど)
こういった、食品の栄養についての真実を明らかにしている『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(津川友介著/東洋経済新報社)では、日常の食事にはオリーブオイルなどの植物性脂肪を使い、野菜類が多く魚も積極的に摂る「地中海食」が勧められています。
ただし、地中海食が勧められているのは、欧米の食事を基準にしているからであり、魚を積極的に食べ、油脂分が少なく、野菜の煮物など食物繊維がたっぷりと摂れる「和食」も評価されるべきでしょう。
メディアでは「この食材で健康になる!」といった紹介の仕方をされることが多いですが、大事なことは「まんべんなく・バランス良く・おいしくいただく」ことです。その日に自分が食べたものによって、未来の自分のからだがつくられます。食事は未来の自分の健康への投資です。正しい知識を得て、本当に必要な食材を吟味しながらとり入れてください。
また、2017年に「コーヒーを日常的に飲む人は、あらゆる病気によって死亡する確率が下がる」という研究発表がされました。コーヒーに入っているカフェインには、交感神経を刺激し、脳を覚醒させる効果があります。
交感神経は血管を収縮させ、心臓の鼓動を強め、血圧を上昇させます。それなのにコーヒーを飲むと死亡率が下がるのは、コーヒーには血圧上昇によるデメリットを上回る、なんらかのメリットがあるからだと考えられています。
日本の研究でも、13年間のコーヒー摂取で脳卒中のリスクが20%減少したという報告があります。子宮がん、前立腺がん、乳がんなど複数のがんでも同様の報告があり、1日に3~5杯のコーヒーを飲むと、認知症の前段階から認知症への進行が抑えられるという報告もあります。
さらに、多くのデスクワーカーが悩まされているドライアイの症状を軽減したり、細菌への抵抗力を高めたりするとの報告もあります。
これらの効果は、コーヒーの持つ抗酸化作用(からだがサビるのを防ぐ作用)や抗炎症作用によるものと考えられています。しかし、それだけでは説明がつかないことも多く、コーヒーにはまだまだ未知の成分、未知の作用が隠されているのではないかといわれています。
ストレスやメンタルは健康寿命に影響するのでしょうか?
日々、私たちはたくさんのストレスにさらされています。ストレスは目に見えないものなので、ストレスが病気を引き起こすことが「気のせい」「妄想」といった偏見をもたれていた時代もありました。
しかし、現在の医学では、ストレスが病気を引き起こす、あるいはからだの症状として現れるということはまぎれもない事実であり、心身症や機能性疾患、適応障害といった確立された診断名が存在します。
ストレスのケアには、マインドフルネスに関するエビデンスが次々と出てきています。主に「瞑想」を用いますが、要は「一心不乱」になることが良いということです。何かに没頭し頭の中をからっぽにすると、脳がリセットされストレスが軽減されるのです。継続するとストレスへの耐性も高まるといわれています。
一心不乱になるのであれば、ウォーキングでも料理でも、何でも良いでしょう。難しいことは考えずに、日常の中で「無心で何かに没頭する時間」をつくるのです。
日々の小さなストレスを解消していくことは、大きな病気の発症を予防するという意味においても大切なことです。からだに症状が出ている時点で、心は「助けて」とシグナルを送っていると考えてください。「最近ちょっとおかしいな」と感じたら、まずは病院で相談して、小さなストレスの芽を早めに摘むようにしてください。
ストレスによる不調というと、多くの方が精神科や心療内科に行くものだと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。内科でもストレスによって引き起こされるからだの不調について診察していますし、不調の原因となるストレスをケアする方法を一緒に考えることも内科医の仕事の一つです。
精神科へ行くハードルが高いと感じたら、まずはかかりつけ医に相談してみてください。必要なときは心の専門家を紹介してもらうことももちろん可能です。
孤独は寿命を縮める
しばしば孤独は「のどが渇いているのに水を飲むのをがまんしている状態」にたとえられ、長引けばからだにとり返しのつかないダメージを与えます。心が孤独に悲鳴をあげているのに頭がそれを認めようとしないと、そのひずみはいつか必ずからだに症状として現れてきます。
JAGES(日本老年学的評価研究)という日本の30万人の高齢者を対象とした研究があります。これによると、高齢者のうつ病の発症率は、市町村によって1.7倍の差があるといわれています。この差の原因として、地域の住人同士のつながりが挙げられており、つながりがある地域の方が高齢者のうつ病は少ないことがわかっています。逆に、人と人とのつながりがあり、孤独を感じる人が少ない町は、住む人が健康で長寿になれるということです。
孤独は環境による影響が大きく、「明日から孤独をやめよう」と思っても簡単にできるものではありません。医者も、孤独を治す薬を出すことはできません。
ただし、その人の感じている孤独を知り、解決するために環境に働きかけることはできるかもしれません。悩みを相談できる窓口を伝えたり、同じような境遇の人が集まるコミュニティを紹介したりするといった「社会的処方」もかかりつけ医の仕事です。
老後は複数の居場所を持つようにしよう
かつては「教育20年、仕事40年、引退後の余生が10年」が人生の相場でしたが、今や「引退後の余生」が40年に近づき、「仕事」の期間と同じくらいの長さになりつつあります。
これまでの時代、その仕事人生の中で重要だったのが「学歴」と「肩書き」です。「仕事」の期間に限定された「学歴社会」で、学歴が高いと収入が増え、40年間はそれで良い思いをするという構図でした。しかし、引退後は学歴が高かったり、肩書きがあったりする人の方が生きづらい傾向があると感じています。
デイサービスや「高齢者いきいき体操」などに顔を出すと、そこで一大勢力を築いているのは学歴の高い人たちではなく、元気な女性たちです。男性を探すと、「あの人、昔は偉かったみたいだけど」などといわれながら、隅の方で気難しい顔をして座っていることが多いのです。どちらが幸せな余生を送っているかは一目瞭然でした。
一方、女性は子育てや近所づき合い、幼稚園や学校のママ友とのつき合いなど、周囲と円滑なコミュニケーションをとらなければならない場面が多々あります。ですから、その分能力が高まることは当然といえます。
では、幸せな余生を送るには、何を意識したらよいのでしょうか?よくいわれることですが、複数の「居場所」がある人は元気に過ごす方が多いようです。
たとえば、消防団に所属して活動している人、地域の子どもの見守りをしている人、駅前で毎朝ゴミ拾いをしている人、そういった人たちはすでにリタイア後の自分の役割というものを見つけられており、生き生きとして見えます。男性は、スポーツやゲームなどを通したコミュニケーションが得意ともいわれますから、麻雀や囲碁などは交流のきっかけとして良いでしょう。
おすすめは「50代からの地域デビュー」です。「うちの夫は危ないかもしれない」と感じた方は、地域の人たちとのつながりを持てるように、旦那さんにさりげなく働きかけてみてはいかがでしょうか?旦那さんが地域とのつながりを持てるようになっていくことは、奥さん自身の将来の負担を減らす助けにもなるはずです。
健康寿命を延ばすにはスポーツ・運動も重要でしょうか?
運動すると長生きするということは、科学的にも証明されています。1日15分以上、会話ができるぐらいの速度で、週3回のウォーキングをすると良いといわれています。
運動の中でも、「これをやれば長生きできる」と最近報告があったのが、ソーシャルスポーツです。ソーシャルスポーツとは、みんなで一緒にするスポーツのことです。一人でやるのではなく、他人と力を合わせたり競ったりするスポーツには、運動をするだけではなくコミュニケーションを介した心身の活性化作用があるようです。
座ってばかりの運動不足の人に比べて、スポーツでからだを動かしている人の平均寿命は長いのですが、その差についてイギリスの研究チームがデータを発表しました。そのデータによると、
- スポーツジムに通っている人は1.5年
- ランニングは3.2年
のところ、
- サッカーは4.7年
- バドミントンは6.2年
- テニスはなんと9.7年
も長生きするようです。
ジムに通ったり、一人黙々と歩いたり走ったりするよりも、みんなで声をかけ合いながら、一つの目標を目指す人たちの方がさらに長く生きられるようです。
他人とするスポーツでは、考える力が求められます。個人スポーツは自分との戦いで、自分さえ頑張れば良いですが、ソーシャルスポーツではみんなが守らなければならない決められたルールがあり、目標を達成するためにはコミュニケーションが必要です。
からだを動かしながら他人とコミュニケーションをとることに長生きの秘けつがあるのかもしれません。
まとめ
健康寿命を延ばすために必要な生活習慣について、ファミリークリニックあざみ野 院長の石井 道人先生に解説いただきました。適切な食事と運動、ストレスの管理が健康を維持する基本であることがわかりました。
地中海食や和食のようなバランスの取れた食生活が寿命を延ばすために効果的であること、そして日々の適度な運動が心身の健康を支える重要な要素だといえます。また、ストレスや孤独は健康に影響を与えるため、より長く健康的な生活を送るにはこれらを適切に管理することが不可欠です。
石井先生のアドバイスを生活に取り入れ、健康寿命を延ばせるようにしていきましょう。
この記事の監修医師
石井 道人 医師(ファミリークリニック あざみ野 院長)
- 北里大学医学部卒。
- 東京都立多摩総合医療センターで救急医療、総合診療を学ぶ。2013年より北海道・喜茂別町で唯一の医療機関、喜茂別町立クリニックに管理者として赴任。乳幼児健診から看取りまで、町民二千人の健康管理を担う。
- 日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医、日本救急医学会認定救急科専門医、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本医師会認定認知症サポート医、キッズガーデンプレップスクール嘱託医