変形性膝関節症の治し方は?薬物療法や運動療法などの治療法を医師がわかりやすく解説

治療

変形性膝関節症は、膝の痛みや動きの制限を引き起こす疾患です。今回は、変形性膝関節症の症状や原因、治療について詳しく解説します。

プロフィール

木村哲也

医療法人社団サザナミ 理事長
きむらてつや整形外科内科 院長 木村 哲也 医師

日本整形外科学会専門医
身体障害者福祉法指定医
日本再生医療学会会員

きむらてつや整形外科内科

変形性膝関節症とはどのような病気でしょうか?

変形性膝関節症は、摩擦によって膝関節を保護する軟骨が徐々に減少し、軟骨の水分が少なくなってすり減って生じた微小軟骨片が関節周辺の組織を刺激することで炎症や痛みを引き起こす病気です。

軟骨が擦り減って骨と骨が直接こすり合うようになるため慢性的に痛みが発生します。また、骨が変性してトゲのようになる骨棘(こつきょく)が形成され、膝がどんどん曲がりにくくなります。 変形性膝関節症はこれらの変化から膝の痛みや機能の低下をもたらし、日常生活に支障をきたす可能性があります。

変形性膝関節症になる主な原因にはどのようなものがあるでしょうか?

加齢

変形性膝関節症の主な原因は、加齢による膝軟骨の水分量の低下および弾力性の低下です。年齢が上がるにつれて膝関節を支える軟骨の弾力性が低下し、長年にわたる使用で軟骨の摩耗が進み、軟骨を健康に保つために必要なヒアルロン酸の生成量も減少します。

これらの変化で軟骨がダメージを受けやすくなり、関節の変形や機能障害を引き起こす原因となります。

筋力の低下

普段の生活で膝関節には大きな衝撃が加わっており、歩くだけでも体重の1.5〜2倍、階段の上り下りでは体重の2〜3倍もの負荷が膝に加わると考えられています。

筋力、特に大腿四頭筋と呼ばれる下肢の筋力が低下するとその衝撃を十分に吸収できずに膝に負担がかかり、衝撃を受けた膝が少しずつ変形して変形性膝関節症を発症させてしまうリスクを高めます。

肥満

先述のように歩行時や階段の上り下りで膝にかかる負担はその人の体重の約3倍にもおよぶことがあり、この負荷が軟骨や半月板への損傷につながります。

たとえば、体重60kgの方の場合は、階段の上り下りで膝に約180kgの圧力がかかっていると考えられます。そのため、肥満は変形性膝関節症と深い関係があります。BMIが30以上の肥満の場合、普通体重の人と比較して変形性膝関節症を発症する可能性が高まるとされています。

膝関節へのダメージ

膝周辺の骨折や捻挫、靭帯や半月板の損傷、膝蓋骨の反復性脱臼、または大腿骨内顆の骨壊死など、過去に膝関節へのダメージを受けている場合は膝の関節や軟骨に過剰な負担や損傷を引き起こしてしまう可能性があるため、変形性膝関節症を発症するリスクが高まると考えられています。

変形性膝関節症は一次性二次性に分けられています。一次性は加齢や肥満、筋肉の衰えに伴って発症する変形性膝関節症で、二次性は上記のようなダメージを基盤として発症するものです。過去の膝関節へのダメージは、変形性膝関節症の発症に影響を与える因子の一つと考えてよいでしょう。

O脚

O脚は変形性膝関節症を発症しやすい体型の一つです。 O脚では足が曲がっていることで体重を分散させることが難しくなり、体重による負担が関節の内側に集中する傾向があります。そのため、内側の軟骨にさらに負担がかかり変形が進行するという悪循環に陥ります。

変形性膝関節症ではどのような症状が現れますか?

初期の症状

変形性膝関節症の初期段階においては、朝の歩行時などに膝に不快感や違和感が生じることが多いようです。この時期の痛みは活動をしている時に限られ、休息を取ることで一時的に軽減します。

また、初期の膝の違和感は、だるく重く感じられたり、動き始めのこわばりとして現れたりもします。さらに、しゃがんだり立ち上がったりするために膝を曲げ伸ばしする動作の際に荷重がかかると、痛みを感じやすくなります。

しかし、この段階では痛みは一時的なものであり、進行することなく改善する場合もあります。

中期の症状

変形性膝関節症が中期に差しかかると膝の痛みはより頻繁に発生し、正座やしゃがむといった動作が困難になってきます。膝の内側が痛くなることが多いのも特徴です。階段の使用、特に階段を下りることが難しくなり、膝の曲がりや伸びが制限されることで動きが鈍くなります。

関節周辺の炎症により膝が腫れたり熱を持ったりすることもあり、膝内に水が溜まることで重だるさを感じることがあります。さらに膝を動かす際にゴリゴリといった異音が生じることもあり、これは関節の変形が進んでいる証拠です。

休息を取っても痛みが消えず、病状が進むと安静時でも痛みを感じるようになります。

末期の症状

変形性膝関節症が末期に達すると膝関節内の骨と骨が直接接触するようになり、日常生活に深刻な影響を及ぼすほどの痛みが続くようになります。この状態では、歩いたり座ったりしゃがんだりという動作が著しく困難になり、日々の活動に大きな制約が生じます。

また、動きづらくなって外出が困難になることで精神的なストレスも増加し、健康面への影響も出てくる可能性があります。膝の変形が顕著になり、膝が正常に伸びずO脚のような変形を伴うこともあります。

このように、変形性膝関節症の末期では身体的にも精神的にも患者さんの生活の質が著しく低下します。

薬物療法による変形性膝関節症の治し方を教えてください

内服薬

変形性膝関節症の治療に使われる内服薬は、病気の進行を止めるものではなく、炎症を減らし痛みを軽減するための対症療法として位置づけられています。主に非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID)が広く使用され、急性の痛みを和らげる短時間作用型や、慢性の疼痛に適した長時間作用型があります。

内服薬には副作用のリスクが伴うため、医師の指導の下で適切に服用する必要があります。

外用薬

変形性膝関節症膝の痛みや炎症を直接緩和するために、肌に塗る薬、貼る薬、坐薬など、さまざまな外用薬が利用されることがあります。これらの薬は非ステロイド系の消炎鎮痛成分を含み、肌から吸収されて痛みのある部分に作用します。

外用薬にはゲルやクリーム、ローション、テープ剤、湿布などの形状があります。また、速効性が求められる場合や、内服薬で胃腸に負担がかかる方向けに、吸収が速い坐薬が選択されることもあります。

関節内注射

変形性膝関節症における関節内注射は、ほかの治療法で十分な効果が得られない場合や、急性期の激しい痛みを抑える目的で適用されます。関節内注射には、主にヒアルロン酸注射、ステロイド注射、PRP療法の3種類があります。

ヒアルロン酸注射は膝関節内のヒアルロン酸に似た成分を主成分とする製剤を膝に直接注射して、痛みや炎症を和らげる治療法です。副作用が少なく、関節の潤滑性を高め、軟骨の保護と修復を促進し、炎症を抑える作用が期待できます。

ステロイド注射は、強力な抗炎症作用と鎮痛効果が期待でき、特に関節に水が溜まるような強い炎症がある場合や、赤くなったり熱を持ったりするような強い痛みがある場合に効果が高い薬剤です。ただし、繰り返し使用すると軟骨や骨をもろくしてしまう副作用があるため、使用は慎重に検討されます。

PRP療法

自分自身の血液からPRP(Platelet‐Rich Plasma=多血小板血漿)を抽出し膝関節に注射することで痛みを抑える新しい治療法です。PRPに含まれる多量の成長因子が損傷した組織を修復したり痛みを軽減させると考えられています。PRPの関節内注射によりヒアルロン酸等よりも長期的な痛みの抑制効果や成長因子による軟骨保護効果が期待できます。

運動療法による変形性膝関節症の治し方を教えてください

変形性膝関節症のための運動療法には、次のような種類があります。

  1. 大腿四頭筋訓練:椅子に座って膝を伸ばして持ち上げ、10〜20秒キープします。または、仰向けになり片足を10cm持ち上げて同様にキープします。これらを朝晩20回ずつ行います。
  2. 片脚起立訓練:手すりを使って片足立ちし、反対の脚を股関節まで持ち上げます。大腿四頭筋と腸腰筋を鍛えられる訓練です。
  3. 関節のストレッチ訓練:ゆっくりとできる範囲で、膝関節をまっすぐにしたり、しゃがみ込みしたりします。入浴中などに時間をかけてゆっくりと膝を曲げ伸ばしする訓練もあります。
  4. 低負荷運動:自転車、水泳、水中歩行は体重がかかりづらいため、過度な運動は避けて行うことも訓練になります。
  5. ウォーキング:しゃがんでからの立ち上がりは避け、30分以内に抑えて行います。

手術療法による変形性膝関節症の治し方を教えてください

人工膝関節置換術

人工膝関節置換術は、損傷した膝関節を金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工関節に置き換える治療法です。手術後はリハビリテーションを開始し、適切なケアや訓練をすることで1ヶ月以内に退院できることが多いでしょう。

人工関節の耐久性は高く、多くの場合は術後20年経っても関節が機能していることが多いといわれますが、人工関節の緩みや細菌感染が原因で交換が必要になる場合もあります。

高位脛骨骨切り術 (HTO)

高位脛骨骨切り術(HTO)は、変形性膝関節症においてO脚の矯正を目的とした手術方法です。O脚の角度を調整し、膝の内側にかかる過剰な負荷を軽減させて痛みを和らげたり、変形性膝関節症の進行を遅らせたりすることが目的の手術です。

長期にわたる効果維持のためには、再手術の可能性も考慮する必要があります。

関節鏡視下郭清術(デブリードマン)

関節鏡視下郭清術、またはデブリードマンと呼ばれる手術は、膝関節の変形があまり進んでおらず、半月板損傷や骨の変形が痛みの主な原因となっている場合に行われる関節鏡(内視鏡)による手術です。 ただし、慢性的に腫れがある場合や軟骨変性が進んでいる場合には、効果が限定的であり適応がかなり限られます。

まとめ

変形性膝関節症は、膝の関節軟骨がすり減り、骨が変形してしまう病気です。強い痛みが生じ、足の曲げ伸ばしが制限されるため、日常生活に影響を及ぼします。変形性膝関節症の主な原因は加齢で、ほかにも筋力の低下や肥満、O脚などの要因があります。

これらの運動療法は膝の周りの筋力を強化し、関節の安定性を高めることで痛みを軽減し、膝の動きをスムーズにすることを目的としています。痛みが強い時は症状を悪化させる恐れがあるため、リハビリテーションを行っている整形外科などを受診し、担当の医師と相談しながら行うことが大切です。

この記事の監修医師

木村哲也

木村 哲也 医師(きむらてつや整形外科内科 院長)

  • 平成19年4月 北里大学卒業後
  • 東京女子医大東医療センター研修医
  • 神奈川県立汐見台病院研修医
  • 横浜南共済病院スポーツ整形外科
  • 神奈川県立がんセンター骨軟部腫瘍外科
  • 横浜市立大学附属市民総合医療センター整形外科
  • 日本在宅クリニック青山診療所
  • 東京ひざ関節症クリニック
  • 新百合ヶ丘総合病院整形外科
  • 了徳寺大学非常勤講師
  • などを経て、
  • 平成29年2月7日 きむらてつや整形外科内科開院
  • 令和 2年4月1日 医療法人社団サザナミ きむらてつや整形外科内科として法人化