医師が勧める「自分に合った医師」の見極め方とは?

自分に合った医師を見つけることは、健康を守る上で非常に重要です。しかし、どのようにして良い医師を見極めればよいのかわからないという方も少なくないことでしょう。

そこで本記事では、ファミリークリニックあざみ野 院長の石井 道人(いしいみちと)先生に、自分にとって最適な医師を見極めるためのヒントについて解説していただきました。

プロフィール

ファミリークリニック あざみ野 院長 石井 道人 医師

日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医
日本救急医学会認定救急科専門医
日本内科学会認定内科医
日本医師会認定健康スポーツ医
日本医師会認定認知症サポート医
キッズガーデンプレップスクール嘱託医

ファミリークリニック あざみ野

診察を受ける際に、医師を見極める方法はありますか?

次の3つを確認することをおすすめします。

  • ①科学的根拠のある説明をしてくれるか
  • ②患者のことを深掘りして聞こうとしてくれるか
  • ③「ジェネラルマインド」を持っているか

それぞれについて解説しましょう。

①科学的根拠のある説明をしてくれるか

医師が患者さんを診察・治療するにあたって「エビデンス(科学的根拠)にもとづいた医療」を行うべきというのが、医療の大原則です。たとえば、ご自身が薬を出されたとき、その薬が選ばれた理由を医師に確認したとしましょう。

  • 科学的根拠ある場合の例:「いくつかの研究結果によると、薬Aより薬Bの方が効果があることがわかっている」
  • 科学的根拠ない場合の例:「新しい薬だから」「昔からからみんな使っている」「〇〇大学の✕✕教授がこの薬が良いと言っている」

しっかりとした研究結果を診察や治療の根拠にしており、そのことを患者さんにも説明してくれる場合、その医師は「信頼に足る」と判断できます。

一方で、他の医師の意見であったり、長年の習慣で使っている薬だからであったり、はっきりとした根拠がないまま治療したりする医師の場合、「時代遅れの診察」を受ける危険があることをわかっておいた方が良いでしょう。

医師からの説明をしっかり聞いて、エビデンスが含まれているか、信頼がおける説明かどうかを見極めることが大切です。

②患者のことを深掘りして聞こうとしてくれるか

しばしば、「自分のからだのことを熟知しているかかりつけ医を持つことで、危険な病気の兆候を早期に察知できる」といわれます。ただし、これは簡単なことではなく、単に行きつけの病院があれば良いというものではありません。ご自身のことを「深掘りする力」がある医師に、日ごろから継続的に診てもらって初めて得られるメリットだといえます。

ご自身の健康は、たくさんの要因が重なりあって形成されています。病気のあり・なしは、その一部に過ぎません。

たとえば、高血圧で通院を始めた70歳の男性がいたとします。診察においては、体調について聞かれ、心臓の音が聴診され、血圧の値に応じて薬が処方されるでしょう。ここまでは基本です。

深掘りする医師は、ここから少しずつ情報収集を進めていきます。

  • この人は一人暮らしか
  • 家族は近くに住んでいるか
  • 認知能力はあるか
  • 車で通うことは可能か
  • 介護が必要になる可能性はあるか
  • あるとしたら何年くらい先か
  • 転倒するリスクはないか
  • 夜は眠れているか
  • 頻繁にトイレに起きることで、睡眠が分断されて血圧が上がっている可能性はないか

といった具合です。それはまさに、カルテと医師の頭の中に患者さんの情報が蓄積され、一つの辞書が完成していくようなイメージです。こう考えると、ご自身の担当医は、守備範囲が広ければ広いほど良いということがおわかりいただけるでしょう。

③「ジェネラルマインド」を持っているか

総合医を目指す医師たちの間では、「ジェネラルマインド」ということばがよく使われます。ジェネラルマインドとは、「専門や病気の種類を問わず、また患部だけを診るという局所的な見方ではなく、全身を診て、あらゆる問題に常に対応しようとするスタンス」のことです。

過去50年間にわたり、日本は大学医局を中心として専門医を育てることを重視した仕組みを作り、非常に高いレベルの医療を提供する国へと成長しました。平均寿命は世界一となり、高齢長寿化はもちろん、世界一低い妊産婦や乳児の死亡率などがそれを表しています。

一方で、専門性への偏重が実際の診察においてゆがみを生み、総合的な診療ができる医師を減らすことへとつながってしまいました。

卒業後、多くの医師はすぐに専門の医局に配属されるため、専門外の病気について経験する機会がほとんどありません。そのため、2006年に始まった新臨床研修制度では、医師としての総合力・基礎力をつけるため、医学部卒業後2年間はさまざまな診療科をまわることが義務づけられました。

しかし、今のところ、総合医を目指す医師が目に見えて増えているということはなく、この制度は必ずしもうまく運んでいないというのが実情です。ただ、ジェネラルマインドの重要性を掲げる病院が研修先として人気を集めるなど、一定の成果は出てきています。

ご自身に合ったかかりつけ医を探す際、このジェネラルマインドを忘れない医師であれば、きっと健康維持の良きパートナーになってくれるはずです。

医師の出身大学は着目すべきポイントなのでしょうか?

自治医科大学(自治医大)出身の医師は、地元で家族の健康を支えてもらうのに合っているといえます。

自治医科大学は、僻地の地域医療を確保するために、全国の都道府県が共同で設立した医科大学です。入試では毎年各都道府県の出身者のトップ2~3名ずつを合格させて、全員が6年間寮で生活しながら医学を学びます。学費はほぼ全額大学から貸し出され、卒業後には少なくとも9年間、出身の都道府県に戻って指定された勤務先で地域医療に貢献すれば、返済が不要となる仕組みになっています。

自治医大は、元々各県でトップクラスの学生が集まってきたうえに、全寮制で学年を越えて学び合う文化があり、学生は懸命に勉強することが当たり前の環境となっています。医師国家試験の合格率は毎年ほぼ100%。他にそんな大学はありません。

現在、1980~90年代に自治医大を卒業した医師たちが総合診療という分野の核となって活動しており、多くの若手医師のお手本となっています。救急医や整形外科医などの専門医でありながら、とてつもない総合力を持ち、病院でも地域でも活躍できることが彼らの特徴です。私も多くの自治医大卒の医師に指導を受け、そのことが血となり肉となっています。

診察を受ける側からすると、地元で家族の健康を支えてもらうには、自治医大出身の医師はぴったりでしょう。近くにそんな医師がいないか、チェックしてみるのもおすすめです。

もう一つ、臨床研修をどこで受けたかも重要な要素です。磁石のように医師や看護師を引きつける病院のことを「マグネットホスピタル」と呼びます。昨今、マグネットホスピタルとして注目を浴びているのは、ジェネラルマインドを持った医療を目指す病院です。

新臨床研修制度が始まった2006年以降、医学生は6年生になると自分が働きたい病院の希望を出し、就職活動を行うようになりました。このときのデータが集計され、毎年人気の病院ランキングが発表されます。このランキング上位に並ぶ病院こそが、まさしくマグネットホスピタルです。

例年、ランキング上位の病院はどこも「ジェネラルマインドのベースがあったうえでの専門医療」という考えを持ち、研修医にもたっぷりとジェネラルマインドを叩き込みます。専門分野が何かという前にまず医師であり、どの診療科の医師になっても最低限の応急処置はできて当たり前というのが多くのマグネットホスピタルに共通する教育理念になっています。マグネットホスピタルで研修を受けたり、医師として働いた経験があったりする医師はおすすめです。

医師を見極める際にすべき質問などはあるのでしょうか?

ご自身に合った医者を見つけるチェックポイントを挙げましたが、おすすめの医師かどうかがすぐわかる手っとり早い方法があります。次の3つの質問を、診察の中で投げかけてみることです。

  • 「外科のことも相談できますか?」
  • 「先生の専門は何ですか?」
  • 「通院できなくなったらどうすれば良いですか?」

それぞれについて解説しましょう。

「外科のことも相談できますか?」

外科とは、キズややけど、ケガの処置など、簡単なものも含めて手術や処置で治癒を目指す分野です。整形外科や形成外科、広いくくりでは、耳鼻科や眼科も外科に分類されます。

内科医になると、外科的な処置に対してどうしても苦手感が生まれ、あまり手を出したくなくなってきます。何かあったときにかかろうと思っている診療所で、ちょっとしたキズの処置などにも対応してくれれば便利ですが、そういった診療所が少ないのには、こういった理由があるのです。

そのため、「外科のことも相談できますか?」と聞いてみて、快諾してくれる内科医や小児科医であれば、ホームドクターとしてイチ押しです。

「先生の専門は何ですか?」

「肺がんの治療です」「子どもの発達に関することです」など、専門性の高い返答は頼りになるものです。ただ、もしご自身が全身のことを診てくれる医師を探している場合、模範解答は「私には専門はありません」です。つまり、「何でも対応できるように準備しています」「何でも相談してください」ということです。

しかし、自信を持ってこの回答ができる医師は多くありません。腕に自信がなければ、専門がないとはいい切れないからです。「総合医です」「家庭医です」も良いかもしれませんが、まだまだ名称が一般化しておらず、患者さんが理解しにくいところが難点です。

「通院できなくなったらどうすれば良いですか?」

「通院できなくなったらどうすれば良いですか?」と聞いた際に、「入院しましょう」と返ってきたら、静かにその病院から離れましょう。

「私がお宅まで伺いますよ」といってくれれば100点満点です。通院が困難になっても、最後まで伴走してくれるのが理想の医師です。 その病院に往診の機能がなくても、病院の車による送迎を考えてくれたり、介護保険の通院介助サービスについて教えてくれたりするのは、ご自身のことをしっかり考えてくれる医師である証拠です。

高額になればなるほど、医療の質は良くなるものなのでしょうか?

品質が良いものや人気が高いものの値段は高くなることが経済の原則です。しかし、医療に関してはこれが当てはまりません。

行う検査や治療が同じであれば、どこのどの医師に診察してもらおうと、全国一律値段は同じです。医療では、「高価なもの=品質のよいもの」ではないのです。医師を選ぶときに、値段は気にしなくてかまいません。

実は、ここにお金持ちの人が陥りやすい落とし穴があります。病院で受けられる診療は、大きく「保険診療」「自由診療」に分けられます。

保険診療は保険証を使うことができ、かかった費用の7割が公費から支払われ、自己負担は3割です。保険診療では受けられる検査や治療が厳密に決められていますが、日本の保険診療は諸外国に比べてカバーする範囲が大変広く、質も担保されています。国が「太鼓判を押している」診療ですから、保険診療を受け続けることが原則として健康上もっともメリットがあるといえます。

 

一方、自由診療は保険診療でカバーされない診療すべてのことで、全額自己負担となるため保険診療よりも高額です。「高かろう、良かろう」で治療を選ぶと、自由診療の世界におのずと入っていくことになります。

自由診療は保険診療のような制限がないため、先進的に思えることもあるかもしれません。しかし、残念ながら現状は違います。目利き力があり情報強者のはずのIT企業のトップや、業界のさまざまなトレンドが集まってくるはずの芸能人でさえ、怪しい自由診療や”トンデモ医療”に引っかかってしまっています。

私たち現場で働く人たちは、おおよそ「怪しい」ということが直感的にわかります。しかし、商品化のうまい人、説明が上手な人が近づいてくると、いかに目利き力のある人でも騙されてしまうことがあるようです。それだけ医療は専門性が高く、特殊な分野といえるのです。

改めて強調しますが、医療においては「高価なもの=品質のよいもの」ではありません。くれぐれも値段で医者や病院を選ばないようにしてください。

まとめ

ファミリークリニックあざみ野 院長の石井 道人先生から、自分に合った医師を見極めるための具体的なヒントについて解説していただきました。

科学的根拠に基づいた説明をすること、患者一人ひとりの状況を深く掘り下げて理解しようとする姿勢、そしてジェネラルマインドを持っていることが「自分に合った医師」を見極める際の重要なポイントであることがわかりました。

これらのポイントを踏まえ、医師を選ぶ際は、自分自身の健康をしっかりと託せるかどうかを見極めることが非常に重要です。信頼できる医師選びを通じて、質の高い医療を受け、健康な日々を送るための一歩を踏み出しましょう。

この記事の監修医師

石井道人

石井 道人 医師(ファミリークリニック あざみ野 院長)

  • 北里大学医学部卒。
  • 東京都立多摩総合医療センターで救急医療、総合診療を学ぶ。2013年より北海道・喜茂別町で唯一の医療機関、喜茂別町立クリニックに管理者として赴任。乳幼児健診から看取りまで、町民二千人の健康管理を担う。
  • 日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医、日本救急医学会認定救急科専門医、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本医師会認定認知症サポート医、キッズガーデンプレップスクール嘱託医