脇の下のしこりを押すと痛い場合の原因は?主な病気・対処法・治療方法を医師が解説

脇の下のしこりを押すと痛い
この記事を監修した医師

高藤 円香 医師

自衛隊阪神病院

防衛医科大学校卒業、現在は自衛隊阪神病院勤。皮膚科専門医。

脇の下に、押すと痛いしこりができてしまうことがあります。一般的には女性に多く見られる傾向です。痛みがあるので不安になりますが、考えられる原因はさまざまです。しこりの状態や症状から、適切に対処することが大切になります。

今回は、脇の下に、押すと痛いしこりができる主な原因や治療方法、そして対処方法などについて詳しく解説します。脇の下にしこりがあって不安に感じている方は、ぜひ参考にしてください。

目次

脇の下に押すと痛いしこりができる主な原因

脇の下に押すと痛いしこりができる主な原因

脇の下にしこりができて、押すと痛みがある場合、考えられる原因は主に下記のとおりです。

  • 腋窩リンパ節の腫れ・感染
  • 粉瘤
  • 乳がん
  • 副乳

それぞれの特徴について詳しく解説します。

腋窩リンパ節の腫れ・感染

脇の下の腋窩(えきか)リンパ節がウイルスや細菌による感染、あるいはアレルギー性皮膚炎を起こして、痛みの他にも赤みが出たり腫れたりすることがあります。場合によっては膿がたまることもあります。これらの症状をリンパ節炎といいます。細菌感染が起きるケースとしては、腕や手に怪我をしたときなどが考えられます。

腋窩リンパ節があるのは、腕の付け根から少し離れた、本来へこんでいる部位です。後述する粉瘤や副乳は腕の付け根にできやすいので、しこりができている場所で判断しやすいかもしれません。

また、痛みは出にくい傾向ですが、腋窩リンパ節はコロナやインフルエンザなどのワクチン接種後の副反応で腫れることもあります。さらに稀なケースではあるものの、乳がんや悪性リンパ腫が原因で腫れることもあるため、注意が必要です。

粉瘤

粉瘤(ふんりゅう)は、毛穴の一部が内側にめくれて袋状になり、その中に皮脂や角質などの老廃物が溜まる病気です。表皮の下層にできるこの袋状のしこりを嚢腫(のうしゅ)といい、炎症が生じると赤くなったり痛みを感じたりすることがあります。かゆみをともなうこともあるでしょう。しこりの硬さはやわらかめです。

粉瘤の原因が不明なケースが多く、以前は細菌感染が原因と考えられていましたが、現在では細菌感染が原因で発生する頻度は低いといわれています。

なお、嚢腫は中の老廃物が多くなるほど大きくなり、老廃物が毛穴から悪臭とともに排出されることもあります。粉瘤は自然には治りません。

乳がん

腋窩リンパ節は乳房の近くにあるため、乳房内で発生したがん細胞が腋窩リンパ節に転移してしこりになることがあります。脇だけでなく乳房にも異常を感じる場合は、乳がんの可能性が考えられるでしょう。

乳房に現れる症状には次のようなものがあります。

  • 乳房:しこりがある・赤く腫れる・変形する
  • 皮膚:ただれる・でこぼこがある・ひきつれ・しわ
  • 乳頭から血性分泌液がある

しこりによって神経が圧迫され、しびれが生じることもあります。リンパ節が大きくなるとリンパ液の流れがせきとめられることにより、腕がむくむ症状も見られます。しこりに痛みがあるケースはそれほど多くなく、しこりは可動性がなく、硬いゴツゴツした感触になるのが特徴です。

副乳

胎児のときには誰もが複数の乳腺の素を持っており、通常は自然に消失するのですが、この一部が残ることがあります。この残った乳腺組織が副乳です。脇の下以外にも、乳房から足の付け根にかけて見つかる可能性があります。人によって左右にある場合や片側だけにある場合、また現れ方は乳頭・乳輪・乳腺組織と大きさもさまざまです。

女性は10人に1人程度の割合で副乳があるといわれており、ホルモンの影響を受けると腫れることがあります。そのため、生理前・授乳中・更年期などホルモンバランスが変化する時期に痛みが生じやすいといわれます。

なお、ごく稀に副乳から乳がんや乳腺腫瘍ができるケースも見られます。しこりが徐々に硬くなったり大きくなったりするなど、変化が生じることもあるでしょう。

脇の下のしこりの治療方法

脇の下のしこりの治療方法

脇の下のしこりは、原因によって治療方法が異なります。ここでは、それぞれの原因に対する治療方法について解説します。

腋窩リンパ節の腫れ・感染がある場合

腋窩リンパ節の腫れ・感染がある場合は、炎症を抑えるために抗生物質の投与を行うのが一般的です。場合によっては、短期間にステロイドを使用することもあります。1〜2週間で改善する場合が多い傾向です。

粉瘤の場合

粉瘤の治療は、特に症状がなく大きさも小さければそのまま経過観察するケースが多いでしょう。粉瘤が大きかったり破裂の可能性があったりする場合などに、外科的な処置を行うのが一般的です。外科的な処置としては、切開法もしくはくりぬき法があります。

切開法はメスで切開し、粉瘤の袋と内容物を取り除く方法です。くりぬき法は粉瘤に小さな穴を開けて内容物を抜き取り、粉瘤の袋を抜き取る方法です。どちらも粉瘤に炎症がある場合は先に炎症を抑えるために抗菌薬を内服することもあります。

切開法によって粉瘤を摘出できれば、その後の再発リスクは抑えられる可能性が高いです。

乳がんの場合

乳がんの場合は、がんの進行度と患者さんの状況に応じて、手術療法と、抗がん剤やホルモン剤などの薬物療法、放射線療法を組み合わせて治療していきます。

特に進行がんや再発がんの場合は、腫瘍の大きさだけでなく、他臓器への転移の状況や閉経の有無、ホルモン療法の感受性などさまざまな面を考慮して治療方針を決定します。

乳がん手術には乳房を温存する「乳房温存手術」があります。乳房温存手術後は、乳腺にがんが残っている可能性があるため、再発予防として放射線治療を行うことが多い傾向です。場合によっては乳房を切除する「非定型乳房切除術」になることもあります。

副乳の場合は基本的に治療の必要はない

副乳の場合、基本的に治療の必要はありません。ホルモンバランスの変化で痛みが気になる場合は、漢方薬を処方することもあります。

なお、痛みが強かったり普段の動きで邪魔になる場合は、切除することもあります。成人の場合、局所麻酔で1時間以内に切除できることが多い傾向です。切除後一定期間は傷跡が残りますが、ほとんどの場合消失します。見た目が気になる方は、美容皮膚科で自由診療を受ける選択肢もあります。

脇の下のしこりの検査方法

脇の下のしこりの検査方法

脇の下にしこりがある場合は、まず問診で既往歴・内服薬・発熱や倦怠感の有無などを確認します。いつしこりがあることに気付いたか、どのようなときに痛みが出るかも問診で確認する重要なポイントです。

また、月経の周期も聞かれることが多いため、事前に確認しておくとよいでしょう。その後、視診と触診を行います。

視診と触診の他にも、必要に応じて検査を行うことになるでしょう。主な検査は次のとおりです。

  • 超音波検査
  • 病理検査
  • マンモグラフィー検査

視診・触診

視診・触診では、しこりがある部位・大きさ・硬さ・可動性などを確認します。その後に他の検査を行う必要があるかどうかを判断するための、重要なステップです。この時点で、皮膚のしこりなのか、リンパ節や副乳なのか選択肢を絞っていきます。

乳がんが疑われた場合の検査方法

視診・触診で乳がんの疑いがある場合は、さらに検査を行います。一般的には超音波検査とマンモグラフィー検査を行い、これらの検査の結果で乳がんの疑いが濃厚だった場合は病理検査を行います。

超音波検査

超音波検査では、腋窩リンパ節の状態を確認します。乳がんの疑いがあるだけでなく、リンパ節炎や粉瘤が疑われる場合にも行うことがあります。

超音波検査は、ベッドへ横になった状態で体の表面に超音波の出る器械をあて、体内からはねかえってくる超音波を画像化して乳腺の状態を調べます。

乳腺は白く映る一方、がんは黒く映る仕組みです。検査による痛みは感じにくく、体への負担もほとんどないことが多いため、妊娠中の方でも検査が行えます。なお、場合によっては血流を確認するために造影剤を使用することもあるでしょう。

病理検査

超音波検査やマンモグラフィー検査で乳がんなど悪性腫瘍の疑いが強くなった場合は、細胞や組織を採取して、病理検査にかけることがあります。病理検査は光学顕微鏡を使用して、細胞レベルで詳細に観察します。確定診断として扱われることもある、重要な検査です。

マンモグラフィー検査

マンモグラフィー検査は乳房専用のX線検査です。病変が見つかりやすいように、乳房を2枚の板で挟んで平たくしてから撮影します。この撮影は、上下からと左右からの療法から行われます。視診や触診ではわかりにくい早期のがんでも、発見できる可能性が高い検査方法です。

脇の下のしこりが痛い場合の対処法

脇の下のしこりが痛い場合は、医療機関への受診をおすすめします。しこりは自分で潰そうとしたり触ることで最近に感染し、炎症を起こして化膿したり、痛みが強くなるリスクがあるからです。

副乳では治療する必要がないとお伝えしましたが、他の病気が潜んでいる可能性もあります。脇のしこりが大きくなったり数が増えたりした場合は、何らかの病気が進行している可能性も考えられるため、早めに医療機関を受診しましょう。

特に発熱や倦怠感がある場合は注意が必要です。乳がんなど乳房に関する病気の疑いがある場合は乳腺外科や内科を受診しましょう。粉瘤など細菌感染やアレルギー皮膚炎が原因と思われる場合は、皮膚科を受診しましょう。

まとめ

脇の下にしこりがあり、押すと痛い場合は、粉瘤や腋窩リンパ節の腫れ・感染が痛みの原因として多い傾向です。

また、副乳の可能性も考えられます。一般的に治療の必要はありませんが、痛みが気になる場合は医療機関で相談するとよいでしょう。さらに、あまり多くはないものの、乳がんの可能性もあります。しこりが悪化したり、あるいは他の症状が見られる場合は、早めに医療機関へ受診しましょう。

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