桑原 靖 医師
2004年 埼玉医科大学医学部卒業、2006年 埼玉医科大学形成外科入局、創傷治療学、難治性創傷治療を専攻し、外来医長、フットケアの担当医師を務める。2013年3月 東京・表参道に日本初の足専門クリニックを開院。形成外科、整形外科、皮膚科、血管外科、リウマチ科など、足に関する各分野で専門的な医療を提供。専門医、専門メディカルスタッフによるチーム医療を行い、密に連携をとることで足の総合的な治療とケアを行う。
日本フットケア・足病医学会評議委員
かかとのカサカサが気になっていても、ケアや治療をせずにそのままにしてしまっている方もいるのではないでしょうか?かかとがカサカサするのは乾燥だけでなく真菌感染症の可能性もあり、放置すると悪化するリスクがあるため注意が必要です。
今回は、かかとがカサカサになる原因や放置するリスク、ケア方法を解説します。
かかとがカサカサになる主な原因
皮膚がカサカサしてしまう原因は乾燥のせいというイメージがありますが、かかとがカサカサになる原因は乾燥を含め、次の4つが考えられます。
- 乾燥
- 加齢
- 水虫
- 外部刺激
まずは、かかとがカサカサになる主な原因をチェックしましょう。
乾燥
かかとに限らず皮膚がカサカサする原因として、まずは乾燥が考えられます。皮膚は皮脂膜という脂肪の膜で覆われており、皮脂膜が水分の蒸発を防止したり皮膚の水分を保持したりしています。しかし、皮脂膜が減ったり除去されたりすると皮膚の水分が失われやすくなり、皮膚が乾燥します。
またかかとには本来皮脂腺がなく乾燥しやすい部位の一つです。乾燥すると、つっぱる・カサカサするなどの症状が現れ、白く粉を吹いたりひび割れたりするケースも少なくありません。乾燥した状態を放置すると皮膚のバリア機能が低下し、ちょっとした外部からの刺激にも敏感になりかゆみを伴うこともあります。
乾燥によって皮膚がカサカサする症状は湿度が低くなる秋から冬にかけて生じやすい傾向がありますが、エアコンが効いた空間や加湿されていない屋内に長時間いる場合や、生活習慣の乱れによって年間通して症状が出る方もいます。
加齢
かかとがカサカサになる主な原因の2つ目は、加齢です。皮脂の生成には、男性ホルモンが深く関わっているといわれています。男性ホルモンの分泌量は思春期の頃から増えて20代中盤でピークを迎え、50代になるとピーク時の半分程度まで減少します。したがって加齢によって皮脂が減るため、乾燥しやすくなるのです。女性は男性よりも男性ホルモンの量が少ないため、男性より早い段階で乾燥しやすくなります。
また、年齢を重ねると皮膚のターンオーバー(新陳代謝)が低下します。皮膚の表皮の外側には、病原体や異物、外部刺激などから保護するための角質層があり、通常は一定の周期で新しい細胞に生まれ変わります。しかしターンオーバーが低下すると細胞が生まれ変わるサイクルが遅くなるため、古い角質がかかとの皮膚表面に蓄積してかかとの角質が厚く硬くなってしまい、カサカサしやすくなります。
水虫
かかとがカサカサになる主な原因の3つ目は、水虫です。水虫は白癬(はくせん)と呼ばれる皮膚の感染症で、皮膚糸状菌(ひふしじょうきんしょう)という真菌(カビ)の一種によって発症します。
水虫はジュクジュクして強いかゆみを生じるイメージが強いかもしれませんが、かかと水虫とも呼ばれる角質増殖型は足の裏やかかとにできる水虫で、角質が厚くなるのが特徴です。かゆみは感じづらく、かかとのひび割れやカサカサ状態、皮がむけるなどの症状を伴います。乾燥によるカサカサやあかぎれと区別しにくく、水虫だと気付かないこともあるため注意が必要です。
外部刺激
かかとがカサカサになる主な原因の4つ目は、外部刺激です。皮膚に外部刺激が加わり続けると、皮膚を保護するために角質が厚くなっていきます。
かかとは体を支えるために圧力がかかりやすく、角質が厚くなって皮膚が硬くなりやすい部位でもあります。皮膚が硬くなるとカサつきやゴワつきが生じますが、硬さやゴワつきを軽減しようと軽石やヤスリなどで削りすぎると、刺激となってさらに角質が厚くなる可能性があるため注意が必要です。
また、皮膚が乾燥するとバリア機能が低下し、外部刺激に弱くなります。弱くなったところに刺激が加わると、少しの刺激にも反応してかゆみを感じたり角質が厚くなったり、炎症を起こしたりするようになります。
かかとがカサカサする際のケア方法
かかとのカサカサした症状は、原因に合わせたケアをすると症状が改善する可能性があります。ここでは、かかとがカサカサする際のケア方法を紹介します。
- クリームを塗って保湿をする
- 適度なピーリングを行う
クリームを塗って保湿をする
乾燥が原因の場合は、保湿クリームを塗って保湿をする方法が効果的です。保湿クリームでかかとの皮膚に油分を与えたり水分を保持したりして、乾燥の悪化を防ぎましょう。
保湿クリームの成分にはさまざまなものがあります。ヘパリン類似物質を含んだ保湿クリームは高い保湿力があります。尿素は角質層の水分保持をサポートして硬くなったかかとをやわらかくする効果が期待できますが、ひび割れがある場合はしみる可能性があります。ビタミンA・D・Eは新陳代謝を促進し、新しい角質層の産生をサポートします。
保湿クリームは、入浴後30分以内の使用がおすすめです。入浴後は血行がよくなっており水分も蒸発しやすいので、なるべく早く身体を拭いて保湿することが大切です。クリームは擦り込まず、刺激とならないよう優しく伸ばすように塗るのがポイントです。
ただし、湿疹やかゆみ、炎症がある場合は乾燥が原因ではない可能性もあるので、自己判断でクリームを塗らずに皮膚科で診察してもらいましょう。
適度なピーリングを行う
角質が蓄積している場合は、適度なピーリングを行うと症状が改善する可能性があります。ピーリングは、ピーリング剤を使用して余分な角質を物理的に除去する方法です。ピーリングで古くなった角質を除去し、ターンオーバーを正常な状態にしていきます。
ピーリングには石けんタイプやジェルタイプなどがあり、角質をやわらかくして溶かす作用がある酸性のピーリング剤が含まれています。主なピーリング剤は、グリコール酸(AHA)、フルーツ酸、サリチル酸(BHA)です。
厚くなったかかとの角質を除去するには定期的にピーリングを行うのが効果的ですが、一度に削りすぎたり頻度が多すぎたりすると、皮膚を保護するために逆に角質が厚くなり皮膚に負担がかかって炎症や痛みなどの皮膚トラブルを起こす可能性があります。ピーリングを行う場合は使用するピーリング剤の使用方法を守って適切に使用し、ピーリング後は保湿も大切です。
かかとがカサカサの状態を放置するリスク
かかとのカサカサは、誰でも一度は経験したことがあるかもしれません。そのため、あまり気にせず積極的に対処していない方もいるかもしれませんが、かかとがカサカサした状態を放置すると症状の悪化や肌トラブルの原因となるため注意が必要です。
ここでは、かかとがカサカサの状態を放置するリスクを解説します。
- ひび割れを起こし出血する
- タコや魚の目(ウオノメ)ができる
- 水虫など菌による肌トラブルが起きる
ひび割れを起こし出血する
カサカサした状態を放置するとかかとの角質が厚くなって柔軟性が失われ、体重をかけたときに皮膚が伸びきれず、表面に亀裂が生じます。これがかかとのひび割れで、出血や痛みを伴うことがあります。適切にケアしないと繰り返し起きやすく、慢性化して治りにくくなるといわれています。
出血や痛みを伴う場合は、かかとをかばうために歩き方や姿勢が不自然になり、腰やひざに負担がかかってしまうこともあります。
タコや魚の目(ウオノメ)ができる
かかとがカサカサした状態を放置すると断続的な刺激によって皮膚が硬くなり、角質のかたまりであるタコや魚の目ができる可能性があります。どちらも皮膚に対する物理的な刺激から皮膚を守るために起こる防御反応として発生します。
魚の目は足の裏の皮膚が円形に硬く厚くなった角質の塊で、円形の中心に痛みを伴う芯ができます。この芯が魚(さかな)の目のように見えることから、魚の目と呼ばれます。芯が皮膚の奥深くまで到達すると歩行時に痛みが生じ、芯を除去しないと大きくなって炎症を起こす場合もあります。
タコも角質が厚くなったものですが、痛みはほとんど感じないことが特徴です。もしタコが痛い場合はタコそのものが大きいために痛いのか、あるいはタコができてしまうくらいの局所への圧力が痛みを感じるのかを考える必要があります。
水虫など菌による肌トラブルが起きる
カサカサした状態を放置しておくと、菌による肌トラブルが起きる可能性があります。かかとがカサカサした状態は皮膚のバリア機能が低下し、菌に感染しやすくなっている状態です。その状態でかかとがひび割れていると、菌が入り込みやすくなってしまいます。
足は水虫にかかりやすい部位のため、水虫になるリスクもあります。冬になって水虫が治まったと思っても、菌が残っていて夏に再発し、次第に重症化して治りにくくなるケースもあり注意が必要です。水虫を放置しておくと、爪白癬や二次的な細菌感染、菌に対するアレルギー反応などを発症する場合もあります。
皮膚科で診察したほうがよいかかとのカサカサ
保湿ケアや適度なピーリングでカサカサした症状が改善する場合は、様子をみてもよいでしょう。しかし改善がみられなかったり症状が悪化していたりする場合は、皮膚科の診察をおすすめします。
ここでは、かかとのカサカサが、皮膚科で診察したほうがよいケースを解説します。
- 保湿をしても改善しない
- 出血を伴うひび割れが起きる
保湿をしても改善しない
保湿をしても改善しない場合は、乾燥だけではなく水虫が原因かもしれません。強いかゆみやジュクジュクした症状がなくても、かかとがカサカサしたりひび割れたりする角質型の水虫の可能性があります。水虫の場合は皮膚科で検査を受け、適した薬を処方してもらう必要があります。
水虫は症状が軽くなったと思っても、菌が残っており再発するケースが少なくありません。そのため、しっかり皮膚科の診察を受け、完治するまで治療を行うことが大切です。
出血を伴うひび割れが起きる
出血を伴うひび割れがある場合は、感染症を引き起こす可能性があるため皮膚科の診察を受けましょう。感染する可能性があるのは、水虫だけではありません。ひび割れてバリア機能が低下したところに細菌が入り込み、重大な感染症を引き起こすリスクもあるのです。
なかでも蜂窩織炎(ほうかしきえん)は注意が必要です。蜂窩織炎は皮膚と皮下の脂肪組織の細菌感染症で、皮膚が赤く腫れて熱を持ち、痛みが生じます。場合によっては歩行困難や発熱、悪寒を伴い、入院治療が必要となるケースもあります。
糖尿病治療やステロイド治療などで免疫が低下している場合は重症化しやすいといわれており、重篤化すると皮下組織や筋膜の壊死を引き起こす壊死性筋膜炎という状態になってしまう危険があります。そのため、放置せず早めの診断と治療が大切です。
まとめ
かかとがカサカサになる原因や放置するリスク、ケア方法を解説しました。
かかとがカサカサになる原因には、乾燥・加齢・水虫・外部刺激があります。保湿ケアや適度なピーリングで改善する場合もありますが、改善しなかったり悪化したりする場合は注意が必要です。
放置すると症状が悪化し、肌トラブルや感染症のリスクが高まります。かかとのカサカサした症状が続く場合は放置せず、皮膚科の診察を受けましょう。
参考文献