皮膚にいつまで経っても消えないしこりがあると、何か病気なのではないかと心配になるでしょう。それが押して痛いしこりならなおさら不安になるものです。耳の上にできた押すと痛いしこりの正体は何なのでしょうか?
今回は、考えられる原因や治療方法について解説します。さらに、気になるしこりができた場合に受診する目安も併せてお伝えします。自己判断で病気の発覚を遅らせないためにも、ぜひ参考にしてください。
押すと痛い耳の上のしこりは粉瘤(ふんりゅう)?
耳の周辺は自分で見やすく他人の目にも触れやすいことから、しこりがあると気になってしまうでしょう。身体にできるしこりに粉瘤(ふんりゅう)と呼ばれるものがありますが、しこりが粉瘤かどうか自分で判別するのは簡単ではありません。
まずは、粉瘤とはどのような特徴があるのか、耳の上のしこりが粉瘤である可能性はあるのか解説します。
粉瘤とは
粉瘤とは皮膚の内側にできる良性嚢腫(のうしゅ)のことです。毛穴の入り口部分が小さな袋状になり、その中に古い角質や皮脂などが溜まってしこりとなります。本来は自然と身体から剥がれ落ちるはずの垢を溜め込んでしまっている状態で、見た目にはドーム状に盛り上がっていることが特徴です。
粉瘤は発症部位によって種類があるものの、一般的には表皮嚢腫(アテローム・アテローマ)のことを指します。表皮嚢腫は全身に発症しますが、耳周辺が好発部位としてよく見られます。大きさは数mm〜数cmほどで、急激に大きくなることはほぼありません。単発性もしくは多発性の場合がありますが、一部位に10個を超えることは稀です。青年期〜中年期の男性が発症することが多いといわれています。
基本的に痛みはなく、触るとしこりのような硬さを感じます。強く圧迫すると、中央にある黒点状の開口部から腐臭をともなう白い粥状の膿が排出されることもあります。時間の経過とともに大きくなり、自然治癒はしません。膿を出しても袋が残っているため、再び内容物が溜まり再発してしまいます。
粉瘤は痛みをともなうケースもある
粉瘤は通常痛みのようなはっきりとした自覚症状はありません。とはいえ、放置して破裂した場合または自分で潰した場合は、炎症を起こしたり異物反応を起こしたりする場合があります。
粉瘤は皮膚の中に老廃物が溜まっている状態のため、細菌が増殖しやすい環境です。その老廃物が漏れ出すと、人体の免疫がこの細菌を排除しようとして炎症を起こします。この状態を炎症性粉瘤(感染性表皮嚢腫)と呼び、発赤・腫脹とともに痛みを伴います。
軽度の炎症であれば押すと痛みがある程度ですが、重症化すると押さなくても疼痛や熱感を引き起こすため、注意が必要です。押すと痛い耳の上のしこりは炎症性粉瘤かもしれません。
押すと痛い耳の上のしこりができるそのほかの原因・病気
耳の上のしこりには、粉瘤以外の原因が隠れている可能性もあります。特に痛みがあるしこりは、放置すると状態が悪化してしまいやすいです。考えられる主な3つの原因を取り上げ、それぞれの特徴を解説します。
- 耳瘻孔(じろうこう)
- 耳介血腫(じかいけっしゅ)
- ケロイド・肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)
耳瘻孔(じろうこう)
耳瘻孔は耳の周辺に小さな穴が空いている状態のことです。この穴は約80%の割合で耳前部・前耳輪部に生じます。この穴は瘻管(ろうかん)と呼ばれる身体内にできた通路のようになっていて、奥行きは0.5mm未満の浅いものから2cmほどに至るものまでさまざまです。単発の場合もあれば、片耳に多発または両耳に生じる場合もあります。
生まれつきであることが多いため、正式には先天性耳瘻孔と呼びます。胎児期に組織が複数融合して耳を形成する際に癒着不全が起こるのが原因と考えられており、東洋人の発生率は約10%ほどといわれます。男女ともに生じますが、女性にやや多い傾向にあります。
通常は無症状で、日常生活に支障はありません。しかし、瘻管内に角質や皮脂が溜まって白い豆腐かす状の分泌物が出ることがあり、触るとしこりを感じます。その分泌物が感染や炎症を起こし、発赤・腫脹・悪臭を伴い、押すと痛みを感じるようになります。一度感染すると再発を繰り返すことが多いといわれます。
耳介血腫(じかいけっしゅ)
耳介血腫は耳介の前部・上部に外傷を受けることにより、耳介皮膚や軟骨の間が剥離し血が溜まってしまう病気です。柔道やレスリングなどのコンタクトスポーツを行う方は鈍的な機械刺激が反復して加わるため、血種が起こりやすいとされています。ただし、稀に原因が特定できない特発性のものもあります。
本来ごく小さな血腫は自然と吸収されることが多いですが、放置して軟骨膜壊死や軟骨新生が生じた場合、または感染によって耳介軟骨膜炎が起こった場合は、耳介内部の組織が器質化し肥厚変形します。この状態をカリフラワー耳と呼びます。耳介血種の経験がある患者さんがカリフラワー耳となる確率は約95%です。
耳介血腫の主な症状は、軽度の疼痛・圧痛・熱感です。感染を起こした場合は、耳介全体が腫脹し激痛が認められます。カリフラワー耳になると審美性が気になる方も多く、聴力低下を感じることもあります。
ケロイド・肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)
外傷・熱傷・手術創などの治癒過程で線維成分が過剰に増殖すると、ケロイドまたは肥厚性瘢痕と呼ばれる状態になります。ケロイドと肥厚性瘢痕は似ているところもありますが違う疾患です。
ケロイドは手術の痕などの傷にできるわけではなく、真皮の表層に生じたわずかな損傷でも発症原因となります。しこり状で赤く隆起しており、痛みや痒みをともないます。全身に発生の可能性はありますが、好発部位としては胸骨・肩関節・恥骨周囲が挙げられ、下に骨が存在し創部に張力が加わりやすい部位に生じやすいです。さらに耳介周囲にも発生しやすく、これにはピアスによる刺激や炎症が関係していると考えられています。
肥厚性瘢痕は真皮中層から広く広範囲に損傷が及んだ場合の創傷治癒の遅延により発生し、瘢痕は赤みがあり、盛り上がっている状態のことを指します。この赤みや盛り上がりはもとの傷の範囲を越えず、発生から半年程度で沈静化して白く平坦化しやわらかくなるのが特徴です。しかし、細菌感染が生じると炎症が起こって症状が長引きます。
押すと痛い耳の上のしこりの治療方法
ここまで、耳の上にしこりができる原因として考えられる4つの病気について解説しました。どの病気が原因だとしても、押すと痛みがある場合は炎症を起こしている可能性が高いため治療が必要です。ここでは、それぞれの病気に対する一般的な治療方法について解説します。
- 炎症性粉瘤の治療方法
- 耳瘻孔の治療方法
- 耳介血腫の治療方法
- ケロイド・肥厚性瘢痕の治療方法
炎症性粉瘤の治療方法
炎症性粉瘤ではまず炎症を抑えることが大切であるため、抗菌薬を内服する保存的治療を行います。
根治治療としては、内容物および嚢腫壁を含めた切除手術が有効です。内服治療・局所洗浄などで炎症が落ち着いてから、切開法もしくはくりぬき法を行います。切開法はメスで切開し、粉瘤の袋と内容物を取り除く方法です。くりぬき法は粉瘤に小さな穴を開けて内容物を抜き取り、粉瘤の袋を抜き取る方法です。
耳周辺を含めた皮膚の薄い部位などの手術が困難な症例では、漢方処方の排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)の内服による効果も確認されています。
耳瘻孔の治療方法
耳瘻孔は急性炎症時に切開すると感染が周辺組織に広がり、軟骨が二次感染を引き起こす危険性があるため、切開や排膿をしない保存的治療が優先されます。保存的治療では瘻孔洗浄を行い、抗生剤水溶液を注入します。
感染を繰り返す場合には、瘻管の全摘出手術を行います。瘻孔洗浄と抗生剤の注入によって炎症の治癒が確認されてから1〜2ヶ月経過した後、成人なら局所麻酔、幼少時なら全身麻酔下で行われます。
瘻管の方向を確認して切開し、瘻管を周囲組織から剥離して摘出し縫合するという流れです。感染を繰り返している患者さんは瘻管の癒着が強くなり摘出が難しくなるため、早期に手術を行うことが大切です。
耳介血腫の治療方法
耳介血腫は再発しやすく、軽症のうちに適切な圧迫処置および固定を行うことが重要となります。受傷直後は耳介を冷却し、圧迫して血腫の発生を極力抑えましょう。
それでも血腫ができた場合は、穿刺・吸引してから耳介を圧迫します。その対処で除去できなければ切開して排出(ドレナージ)し、再度血が溜まらないように鋳型を当てて圧迫止血を行います。圧迫方法には非侵襲的圧迫もしくは縫合固定がありますが、前者では鋳型がずれることが多いため、枕縫合により固定する方が良いです。
術後は局所を清潔にし、消毒と抗生剤の投与により術後感染を防ぎます。耳介血腫の原因となったスポーツを続けていると当然再発するため、定期的な通院も大切です。
ケロイド・肥厚性瘢痕の治療方法
ケロイドおよび肥厚性瘢痕の治療としては、保存的治療が第一選択です。瘢痕部を圧迫することで肥厚性瘢痕を予防できる効果が確認されているため、スポンジや伸縮包帯などを用いて圧迫療法を行います。また、炎症を抑えるためにステロイド剤の外用・貼付・局所注射、または抗ヒスタミン薬の内服などの治療が中心となります。
審美性が悪く手術を行う際には、創部にできるだけ緊張が加わらないよう、周囲の皮下剝離・埋没縫合を行い、組織の欠陥が大きければ皮弁移植・植皮を行います。術後は圧迫やステロイド局所注射などの治療を加え、炎症の再発を予防します。
なお、耳介ケロイドの原因がピアスによる炎症の場合、刺激を取り除けば再発しにくい傾向が高いといわれます。
耳の上のしこりが押すと痛い場合の受診
しこりができたことに気付いたら、いつ受診すべきか悩む方は多いでしょう。特に押すと痛みを感じる場合にはどのような病気が隠れているかわからないため、不安が大きいものです。
こここでは、耳の上にしこりができた際に受診する診療科とタイミングについて取り上げます。さらに、痛みを感じないしこりは受診しなくてもいいのかも確認していきましょう。
何科に行けば良い?
耳の上にできたしこりは、皮膚科や耳鼻咽喉科を受診しましょう。
また、粉瘤・耳介血腫が原因のしこりであれば皮膚科や形成外科で診てもらえることもあります。特に粉瘤の場合はめずらしい疾患ではないので、手術の症例数が多い皮膚科を選ぶことがおすすめです。
受診するタイミングは?
痛みが出ている方は、その程度に関わらずなるべく早く受診しましょう。耳の上のしこりは眠っている間に圧迫され、気づかない内に患部を傷つけるリスクが高いです。我慢せずに受診し、医師に相談することが早期治療の鍵となります。
受診した際にはいつからしこりができているか、どのくらいから痛みが出始めたかを伝えると良いでしょう。ほかにも症状がある場合は、合わせて伝えておくとより適切な診断をするのに役立ちます。
押しても痛くないしこりは受診しなくて良い?
押しても痛くないしこりは粉瘤の可能性が高いです。自覚症状がないと放置してしまいがちですが、次第に大きくなった粉瘤は患者さん自身が触らなくても自壊し破裂する恐れがあります。
清潔にし感染は避けても、異物反応が起これば炎症性粉瘤に発展してしまいます。しこりができたばかりの小さい段階で慌てて受診する必要はありませんが、痛みが出る前に受診するのがおすすめです。まとめて複数個発症した場合にも受診し治療すべきです。
まとめ
耳の上にできる押すと痛いしこりの原因・治療法・受診について解説しました。耳の上にしこりができている、しこりを押すと痛いといった症状がある方は、ぜひ炎症が広がる前に早めの受診を心がけてください。
普段痛みがないからといって、炎症の程度が小さいとは限りません。またしこりが気になって度々触ってしまうと、炎症が広がり症状が悪化します。耳・頭の機能に影響を与える可能性もあるため、ただのしこりと自己判断して放置しないようにしましょう。
参考文献